第24回 私と性教育──なぜ?に答える      2006.2   

 

「街角エイズ無料検査」実況報告

         性を語る会代表  北沢杏子

 
赤枝先生にインタビューする北沢杏子

 東京・原宿の竹下通りは、若者たちの人気スポット。奇抜なファッションのティーンがひしめきあっています。通りから少し入ったビルの2階に、これもいま流行のパワーストーン&アロマグッズのおしゃれなお店があって、その一角で『街角エイズ無料検査』を開いているのが、産婦人科医の赤枝恒雄先生。

 先生は、ご自分のクリニックで「HIV(エイズウィルス)に感染しているかもしれない若者を待っていても検査に来ない。だったら、自分のほうから街に出ていって検査を呼びかけ、早期発見・早期治療に繋げよう」と、一心太助の心境で月3回、夜の繁華街に出かけています。

 今回、私が制作している教育教材ビデオ『正しく知る!性感染症とエイズ』(中・高生対象)に、赤枝先生のインタビューや“街角エイズ無料検査”の現場を撮影し編集したので、見聞記をお届けします。

 厚生労働省エイズ動向委員会の発表によると、昨年1年間の新たなHIV感染者・発症者は1,024人で、2年連続1,000人を突破しました。現在世界中では、HIV患者/感染者数は4,000万人を超え(すでに2,000万人が死亡)、年間500万人が新たに感染/発症しています。

 いわゆる先進国で増えているのは日本だけで、未報告も含めると、年間、推計3,000人が感染しており、その40%以上が10代20代の若者です。2006年1月1日までの累計数は、患者・感染者あわせて12,400人。この調子で増え続ければ、5年後には5万人に達するだろうと推定されています。性的活動が活発な10代20代にとって、エイズは他人事ではないのです。

 赤枝先生のお話では、「感染から発症まで平均10年なんてとんでもない!」「ぼくのクリニックに来た女の子は、14歳でセックスして感染、それに気づかずに診察を受けに来たのが21歳。腰から背中いっぱいカポジ肉腫でしたよ」とのこと。もっと早く検査を受けて発見し、発症を抑える治療と、医師の忠告どおりの規則正しい生活を守れば、10〜20年と発症を防ぐことができたのに、この女性は手遅れで間もなく亡くなったといいます。

 なお、HIV感染がわかった時点で申請すれば、“免疫不全”の「障害者手帳」の交付が受けられ、月額約20万円の薬代や交通費などの支給も受けることができます。赤枝先生のお話では、同じ若い女の子でも、HIV感染を母親に打ちあけ、障害者手帳の交付の手続きはもちろん、日常生活での精神的サポートをしてもらった女性は、いまも元気でデザイナーを目指して学校に通っているとか。「母親と娘、息子の間で何でも打ちあけられる親しい関係がいちばん」とのことでしたが、読者のあなたはどうですか?

 さて、原宿の『エイズ無料検査』の看板にひかれて、若い女性が入ってきました。検査の結果は15分でわかるという迅速検査(ダイナスクリーンHIV-1/2)。何か心配なことがあった日から約2ヵ月経っていないと抗体の検出ができないので、それが条件です。「2ヵ月経ってますか、何かあってから?」と先生。「はい」と女性。「じゃあ、腕を出して」と気軽な調子で採血。「15分後にわかりますから、そのへんでショッピングでもしてらっしゃい」「はい」――さて15分後、先生は検査の結果を用紙に記入して封筒に入れ、手渡します。「結果はこの中に書いてありますから」「ありがとう、先生」「では、次の人どうぞ!」 2時間で10人は来るとか。

 とくに若い男の子は、仲間と一緒なら怖くない!とばかり、ぞろぞろやってくる。「陰性(非感染)だったら喜ぶでしょうね?」と訊くと、先生は「うん、『こんどからコンドームするよ、先生』と、わいわい帰っていく」とのことです。

 とはいえ、どこででもこんな一心太助のお医者さんが、無料検査をしてくれるわけではありません。各地の保健所に、あらかじめ電話で申し込めば、匿名・無料で検査が受けられるので、まわりの若者たちに、ぜひ伝えてほしい――と、この取材で強く思ったことでした。


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