第28回 私と性教育──なぜ?に答える                                      2006.6  


東大生『法と社会と人権ゼミ』
   ──フィールドワーク報告 その2──

             性を語る会代表  北沢杏子

 

 東大生『性と人権ゼミ』のフィールドワーク(以下FW)は、ロールプレイの後、彼らの希望で、私が製作した新作ビデオ『正しく知る! 妊娠・中絶・避妊』『正しく知る! 性感染症とエイズ』の2本を上映。引き続き、『女性国際戦犯法廷』──企画・製作VAWN-NET Japan(戦争と女性の暴力・日本ネットワーク)──の法廷での、旧日本兵2人による日中戦争時「民間女性へのレイプ証言」の部分を見せました。
 こうして、戦争という狂気の中で行なわれた“九州大学・米軍捕虜生体解剖事件”侵略戦争時の、“レイシズム(人種差別)としてのレイプ”について考えさせたのです。数日後、彼らから、当日のFWの『性と人権ゼミ』の感想文が送られてきました。その一部を転載してみます。

 普段、国家の暴力や戦争被害者については多少の本も読んでおり、自分なりに考えを巡らせたりもしていたのですが、『性』という自分自身に直接的に関わってくるテーマにドキリとさせられました。
 男女平等の理念をどんなに叫んでみても、sexという具体的な行為やそれに関わる自分の考え・姿勢を振り返ってみると、考え込まずにはいられませんでした。具体的な行為において、その理念が実行できないのであれば、それは絵に描いた餅です。

 また、『性』は相手がいなければ成り立たないという指摘も、当たり前のことではありますが、非常に新鮮でした。相手との関係をどのように構築していくかが『性』の中心的課題と感じました。どうしても男性優位に立たされてしまう社会状況やイデオロギーを脱構築しつつ、『他者』である異性との関係を新たに構築していければと思います。
 そのためにはまず、自分自身の中に刷り込まれてしまっている歪んだ『性』意識をなんとかしなければ! そして、未だに苦しんでいる戦時性暴力の被害女性たちを支援し、戦前から続く男性優位社会に風穴を開けねばなりません。もちろん家父長制の象徴である天皇制も大いに批判しなければなりませんが。

 自分の中にある『性』の意識が、ある意味では戦時中に現地女性を強姦した兵士のそれと地続きに繋がっているのではないかと感じさせられた2時間でした。根深い問題ですが、考えることを諦めずに現状打開に向けて何をすればいいのか考えていきたいと思います。

 教養学部の学生ですから、まだ、20歳前後ぐらいでしょう。「戦争中は、あなた方の年齢の学生が学徒兵として戦場に送られ、相手国の人々を殺戮、帰国後も拭いきれないPTSD(心的外傷ストレス後障害)に悩まされるという不本意な人生を送ったのですよ」と伝えながら、イラク戦争に派兵された若い米復員兵が何人もPTSDが原因で自殺していることを思い、不戦を誓う憲法9条を、何としても守らなければと思いました。

 こうした若い学生対象のFWは、どの大学でも大いに進めるべきだと痛感します。衆参国会議員の質疑応答の実況中継や党首対談などをTVで観ていると、その論調の稚拙さ、無知さ、暴言にあきれ返ることもしばしば。彼らも、学生時代にこうしたFWで自分自身の意識改革を行なえば、もう少しましな言動をとれる人間になっていただろうにと思います。
 ともあれ、今回のFWゼミは、私にとっても興味深く、また、力をこめた性教育の実践体験ともなりました。


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