北沢杏子のWeb連載
第31回 私と性教育――なぜ?に答える 2006年9月 |
エイズ ―― 男が違いを作る! Men make a difference
厚生労働省エイズ動向委員会は8月22日、今年の第2・四半期(3月27日〜7月2日)に新たに報告されたHIV(エイズウィルス)感染者は248人、エイズ患者は106人、計354人だったと発表。この数字は、四半期毎の報告制度が始まった1985年以降最高だそうです。なお、今回の報告の特徴は、40代50代の感染者が大幅に増加したことで、厚労省疾病対策課は「40代以上の感染者が増えた理由は、休日や夜間の検査体制を充実させたため」と推察。
新規感染者の年齢別内訳は、10代8人、20代67人、30代96人、40代42人、50歳以上が34人となています。感染者数が3ヵ月で248人ということは、このままいくと1年間で約1,000人となり、性教育・エイズ教育に携わる私としては、他人ごとではない!と、焦ってしまいます。
いわゆる先進国で感染者が増え続けているのは日本だけ。今回明らかになった40代50代の感染者は、どこでどんな相手から感染したのでしょうか?そのパートナーたちや生まれてくるあかちゃんに、二次感染してはいないのでしょうか?10代20代の若者の感染も心配です。なぜなら、“性教育バッシング”の渦中にあって、小・中・高校での性教育・エイズ教育は、ほとんど行なわれなくなってきているからです。
公立中学・高校に、性感染症とエイズの出張授業に招かれる地域の保健師さんたちも、学校側から「予防対策としてのコンドームの詳しい装着法は教えないで」と言われて、困っているのが現状とか。現時点での予防法は、NO SEXかコンドームしかないというのに……です。
折も折、去る8月4日、私は「2006 AIDS文化フォーラムin横浜」の分科会で『エイズの授業』の講師を務めました。このフォーラムは大勢のボランティアに支えられて、今回で13回を重ねました。まさに“継続は力なり”で、会場は毎年大勢の人びとで盛り上がりを見せています。
当日は私が制作したビデオ『正しく知る!性感染症・エイズQ&A』を見せたあと、参加者の方々の“手人形によるエイズの人形劇”や、エイズに関する母と娘の対話、父と息子の対話などのロールプレイを実際に演じてもらいました。
最後に「このすさまじいエイズの蔓延に歯止めをかけるためには?」と投げかけて、上記のタイトル『エイズ――男が違いを作る!』の和文・英文のプレートを見せ、意味を問うたのですが……。読者のあなたは、どう解釈しますか?
これは2000年にニューデリーで開催されたUNAIDS(国連エイズ合同計画)の際、世界エイズデーのスローガンとして作られたキャッチコピーです。これに対して、当日の参加者たちは首をかしげるばかり……。
その半月ほど前、私のもとに、国連人口基金の事業として派遣された11カ国の思春期保健関係の医師、保健師、医療調査官、エイズ教育のリーダーたちがやってきました。毎年1ヵ月間、日本に招聘された彼らが、私の拠点アーニ出版ホールに「1日研修」に来るのです。11カ国の人びとは、ウルグアイ、フィリピン、ペルー、ニカラグア、マーシャル諸島、ホンジュラス、フィジー、エクアドル、カンボジア、ボリビア、バングラデシュと多彩な顔ぶれです。
思春期保健・11ヵ国の研修生たち
その中で私の興味をひいたのは、“男性暴力撲滅協会”の肩書きをもつ、ニカラグアの青年、カミロ・ナジェリス氏でした。果たして彼は、「エイズ――男が違いを作る!」のプレートをつきつけた私に、こう答えたのです。
「男が意識を変えること――男らしさとは、性的魅力(逞しいペニスの持ち主)だと刷り込まれてきた神話が、人類をエイズ蔓延の危機に追い討ちをかけているのだから」と。 さすがは男性暴力撲滅協会のメンバー!暴力的で支配的な男性優位社会の男たちの意識を変えていく運動に携わっている彼ならではの発言でした。