北沢杏子のWeb連載

第32回 私と性教育――なぜ?に答える 2006年10月

 

男の更年期 ―― 性教育に加えるべきか?

 

 過日、石原都知事のいわゆる“ババア発言”裁判の傍聴に行ってからというもの、私は男の更年期について考えるようになりました。本題に入る前に、その発言の内容を記しておきましょう。この発言は、現時点で第1発言から第4発言まであるのですが、その第1発言は、次のようなものです。継続
 「“文明がもたらした最も悪しき有害なものはババア”なんだそうだ。“女性が生殖能力を失っても生きてるってのは無駄で罪です”って(東大・大学院教授 松井孝典氏の言葉の引用とか)。男は80、90歳でも生殖能力があるけれど、女は閉経してしまったら子どもを産む力はない。そんな人間が、きんさん・ぎんさんの年まで生きてるってのは、地球にとって非常に悪しき弊害だって……」(「週間女性」2001年11月6日号 誌上インタビュー)。
 この発言に対して、ババア発言に怒り謝罪を求める女たちの会は、447人の公開質問状および日弁連人権擁護委員会の警告書を東京地裁に提出し、訴訟を起こしましたが、第1審は棄却。現在、新たに第2次石原裁判を起こし、今日に至っています。

 さてここで、話を私の専門分野の性教育に戻します。もしかしたら石原慎太郎氏も、加齢による男の更年期にさしかかっていて、ホルモン分泌の変化が神経系のバランスを崩しているのではないか?女の更年期と同じように、発汗やうつ、気分のばらつきがあっての発言ではないか?という疑問に至ったのです。
 そこで『はらたいらのジタバタ男の更年期』他の資料を読んだり、私が代表を務める「性を語る会」主催の「男の更年期・女の更年期」というタイトルのシンポジウムを開いたりしました(2006年8月26日)。

 この日のスピーカーには、元愛育病院院長の堀口貞夫さんと、「性と健康を考える女性専門家の会」会長の堀口雅子さんにお願いしました。お二人とも産婦人科医の仲良しご夫妻です。貞夫氏は、加齢と共に、「専門分野(周産期の問題)への考え方が少し鈍くなってきた。“もうひと頑張りしよう”という意欲がちょっと落ちてきているような気がする。男の更年期症状が出てきているのかなあ」と大勢の聴衆の前で素直に話されました。
 これを受けて、更年期の大先輩である雅子先生は、「いまこそ女性が男性の更年期について教えてあげるとき!」と意気軒昂!閉経期の女性が長年悩んできた身体的・精神的不調が、男性にも現われることを相手に伝えると同時に、例えば、パートナーの悩みの聞き手にまわったり、「いま夫がこうこうなんです」と、心療内科の“代理受診”を受けたのち、夫を説得してその方面の専門医によるホルモン補充療法を受けさせたりすること、などと提案。なーるほど、「これこそパートナーシップ」と、いたく感心した私でした。

 



 そこで発想の転換――いままで二次性徴の授業で、女の子には、初経から閉経までの話をしてきたのですが、これからは男の子にも(特に中高生に)、精通(初めての射精)から更年期までのホルモンバランスの話も加えようと提唱しました。貞夫先生は、「性欲旺盛な思春期の男の子に、更年期の話をしても頭に入らないでしょう」と笑っていましたが、私は「そのとき頭に入らなくても、40代50代になって、ふと思い出して、心療内科や泌尿器科を受診してみる気になるだけでも効果があると思いますけど」と反論。
 現在、中高年男性の自殺が年間3万人という数字の中にも、もしかしたら更年期のうつによるものが含まれているかもしれない。あるいは熟年離婚や青年期の息子との葛藤事件も、更年期のホルモンバランスの精神的・身体的不調に原因があるのかもしれない。さらに、性欲低下や勃起不全で、“もう男じゃない”と、人知れず悩み抜く“刷り込まれ”も、誰にでも起こる更年期の過程だと考えれば、気が楽になるのではないか?
 石原都知事にも「“男は80、90歳まで生殖能力がある”ってのが、どーして自慢なの?」と、いまだに勃起神話に囚われている彼に忠告しなくては……などなど、私の身辺は急にザワザワと忙しくなってきたのでした。


 

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