北沢杏子のWeb連載
第34回 私と性教育――なぜ?に答える 2006年12月 |
いまどきの女子高校生の性感染症と、その“生きにくさ”について
「高校生のあなたへ――将来どんな仕事に就きたいですか?」という私のアンケート設問の回答に、男子の数名が“アダルトビデオの男優”と書き、女子の何人かが“コピーやお茶汲み”と書いてきたのには、がっかりでした。『なんとか景気』などとマスメディアが書き立てる一方、一般市民のくらしは一向に楽にならず、社会全体に「勝ち組・負け組」の格差が広がる中、負け組を自認する高校生たちの、夢をもてない実態が浮かび上がってきます。
このところ、立て続けに高校生対象の講演を行なったので、いまどきの高校生の性知識・性意識・性行動について書きとめておこうと思います。
私は講演依頼を受けると、事前に生徒へのアンケート調査を行なって集計・分析し、対象校の生徒の現状を知ったうえで、そのニーズにあった内容の講演をすることにしているのです。今回私は、アンケートの結果を検討した上で“10代に広がる望まない妊娠と中絶・性感染症(HIV/エイズを含む)の知識と予防”について話そうと決めました。中学生の約10%、高校生の約40%が「性体験あり」という現状ですから、緊急課題は性感染症と妊娠を防ぐための情報を十分に与えること。その上で「自分の健康は自分でしか守れないのだ」という認識を身につけてほしいと考えたからです。
そこで、事前のアンケートには、下記を加えました。
■性感染症(エイズウィルス、クラミジア、淋菌、ヘルペス、カンジダ、B型肝炎ウィルス他)の予防法を知っていますか?
■現在、日本の20歳未満の人工妊娠中絶件数は31,000件。どうしたら防げると思いますか?
■性について、人間関係について聞きたいことや悩みがあったら書いてください(例:マスターベーション・仮性包茎・生理痛・月経不順・妊娠・性感染症・喫煙・薬物他)。
それらへの回答は、「コンドームの着用、避妊、外出し(腟外射精)、遊びのH(性交)はしない、ラブホテル廃止令を閣議決定せよ」などといった、本気だかおちょくり(揶揄)だかわからないようなものが少なくなかった一方で、「人混みの中へ出ない、外出から帰ったらうがい手洗いをする」と書いた無知そのものの生徒もいて、驚かされました。性感染症をインフルエンザの一種とでも思っているのでしょうか?
最後の悩み相談には、いま教育現場を揺るがしているいじめ、リストカット、入墨、根性焼き(火のついたタバコを手の甲や腕などに押しつける)などの、やり場のないうっぷんや、ダイエットによる月経不順、無月経、激しい生理痛、望まない妊娠・性感染症の心配など、女子の訴えが極端に多いのが目立ちました。
2006年11月21日の『世界経済フォーラム(WEF)』(本部・ジュネーブ)発表による経済(所得・職業的地位)、教育(就学率・進学率)、健康、政治(内閣・国会の男女比率)などの4分野のデータ指数に基づく調査では、日本は115か国中79番目に位置しています。上位10位は、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、アイスランドといった北欧の国々でした。こうしたデータからも、日本の女性たち、特に本稿の女子高校生のアンケート回答による“生きにくさ”の原因は、日本の女性の地位の低さにある、と思えるのですが……。