北沢杏子のWeb連載
第39回 私と性教育――なぜ?に答える 2007年5月 |
こんなとき、あなただったら
どうしますか?
「ぼく、好きな人がいるんだけど告白できないんです」。九州の福祉作業所に通う若者たちが50人ほど集まった講演会の席で、A君が講師の私に訴えました。「その相手は、この場所にいるの?」「はい」「では、前に出てきてこのマイクで、好きな人に“好きです”って、言ってみては?」。するとA君は、カラオケよろしくマイクを片手に、「○○さん、好きです」とB子さんに告白しました。名指しされたB子さんは立ち上がって「ザンネン!私、好きな人がいるんです」。そこで「A君、B子さんは好きな人がいるんだって。じゃあ、B子さんの次に好きな人は?」。A君は再びマイクを片手に「○○さん、好きです」と、今度はC子さんを指しました。C子さんは顔を赤くして、「私も好きな人がいるの、ごめんね」。
こんな場合、皆さんだったらどうしますか?
私はA君に言いました。「残念だけどB子さんにもC子さんにも、もう好きな人がいる。こういうのを“失恋”って言うんだけれど、ここにいる大人たち、先生や支援者や親や、それから私も含めて、みんな失恋の経験があるんだよ。きょうは残念だったけど、また好きな人を見つけよう。そして、一人で悩んでいないで、進んで告白しよう。A君の気持ちが、相手にも周囲の人たちにも伝わったら、きっとサポートしてくれて、A君の恋愛が実を結ぶと思うよ」と。
これはデンマークのグループホームでの体験から学んだ知識です。ご存知かと思いますが、北欧の国々では、好き同士なら(避妊の手当て――例えばIUD=子宮内挿入避妊具の挿入などをしてから)同室で暮らせます。
ある日、スティーンとベンテは大喧嘩をしました。ベンテはスティーンの目の前で、婚約指輪を抜き取ると、力いっぱい床に叩きつけました。指輪はコロコロと転がって止まりました。スティーンは大急ぎで拾うや否や、マリグレーテの指にそれをはめてあげてニッコリ。あっという間に失恋から新しい恋愛へと展開したのです。
施設長は私にウィンクして言いました。「スティーンはベンテのために、長い間無駄遣いをせずに貯めたお金であの指輪を買ったのですよ。だから次の恋人にあげる方が合理的でしょうね。知的障害をもつ若者たちに、我々のモラルを押しつけてはいけませんよ」と。
次は、N県の養護学校寄宿舎の先生方対象の講演に行ったときのこと。男性のA先生が訴えました。「中2の女子がトイレ介助(月経時の)を僕に頼むんです。いくら“同性介助が原則”と言い聞かせてもダメ。胸を僕に押しつけて強要するんで困っていますが……」。
こんな場合、皆さんだったらどうしますか?
私はその日、性教育のための手人形を用意していました。で、とっさにピンポン台を立てて舞台を作り、先生方に手人形を渡して、その状況を再現してもらいました。先生方は、ピンポン台の陰から手だけを出しての人形劇なので、恥ずかしがることなく実演しました。
中2女子の人形が「トイレ、トイレ」と言うと、女の先生人形が飛んできます。ところが中2ちゃんは「A先生がいい!トイレは先生じゃなきゃダメ!」と、A先生人形に迫るのです。そして大きな乳房をむき出しにして、A先生にぐいぐい押しつけました。
さらに、A先生の股に顔を押しつけ「クサーイ!洗ってるの?」。A先生はオロオロ声で「洗ってるさぁ……」で閉幕。
知的障害をもつ中2ちゃんは、幼いころから父親か同居の叔父か、兄などからトイレ介助をしてもらっていたのではないか?そして彼らは、彼女が性的に成熟するに従って、乳房や性器を触るといった性虐待を日常的に行なうようになったのではないか?
こうして性的魅力が男性を惹きつけることを学習してしまった中2ちゃんは、A先生にもその方法で迫ってくるのでは?と、私は説明しました。
解決するには、継続的なカウンセリングやミーティング、ワークショップが必要です。彼女を傷つけずに、脳裏に刻まれてしまった性的学習を削ぎ落とす方法を、皆さんも考えてみてください。
〜体験談がおありでしたらお寄せください〜