先月は、私が1987年に立ちあげた『性を語る会(FORUM
ON SEXUAL ISSUE)』(会員、国内外に2,000余名)の活動──シンポジウムやイベント、機関誌(季刊)の発行などによって、性教育に関する最新情報を各地の会員に発信、同時に私自身の意識変革がめきめき(?)と進展してきたことについてお話しました。
今月は、私が各地で性教育の授業や講演を行なっていく中での、とっておきのエピソードを来月と2回にわけてお話しましょう。
──電話は鳴り止まなかった。「よくやってくれた!(80%)」 「寝た子を起こすな!(20%)」の賛否両論は、1992年 12月2日、NHK『くらしのジャーナル』の放映中、再放映、 再々放映のあとも数ヶ月間続いた。
ことの起こりはこうだ。その年の世界エイズデー(12 月1日)を前に、私は東京の私立T高校1年生にHIV/ エイズの出張授業を2校時(計100分)行なった。
翌2日、NHK『くらしのジャーナル』は、これを40分 に短縮したものを放映、私も出演して担当のアナウンサー と補足の対談をした。電話は放映中から殺到し、NHKも T高校も、私が代表を務めるアーニ出版も、その対応に てんてこ舞い。「中学・高校生にコンドームの使い方まで 指導する必要があるのか」が電話での争点となった。── (北沢杏子著『エイズの授業』<アーニ出版刊>より)
いま振り返ってみると、有史以来、初の公共放送NHKでのコンドームの授業の放映は、画期的、かつ大胆で勇気ある企画だったと思います。以来私は、全国各地の保健関係専門職の方々や教職員、障害者福祉施設の指導員はもとより、中学校・高校・専門学校の生徒・学生対象に『コンドームの正確なつけ方10カ条』を教えてきました。
世界人口白書によると、いま地球上で新たにエイズウイルスに感染する人、発症する人は年間500万人(累計約6,000万人、うち死亡約2,000万人)。なかでも10代・20代が最も多く1日にすると推定6,000人、14秒にひとりが感染、または発症しています。
日本でも(未報告を含めると)年間推計3,000人が感染。うち10代・20代が43%を占めています。そして、ワクチンが開発されない現時点でのエイズ予防は、“NO
SEX”か、“コンドーム"しかないのです。だから性教育バッシングの渦中にあってもなお、私は『コンドームの正確なつけ方10カ条』を教えつづけているのです。
ここに、某中学校3年生からの、私あての感想文の束があります。その中のひとりはこう書いています。「ハーイ!チーム・コンドー隊隊長の近藤です。エート、HIV/エイズに関して僕は知らないことが、いっぱい、いっぱい、いっぱいありましたが、あんなに詳しく教えていただき、感謝しております。これからは、自分がエイズに感染しないよう健康第一に考えて行動していこうと思います。おとなになって性交をする時は、コンドームの10カ条を必ず守ります。楽しかったです。とてもためになりました。これからもがんばってチョーよ!」
一方、校長先生からのお便りはつぎのようなものでした。
「先日は本校において貴重な『エイズ教育』の公開授業をありがとうございました。3年4組の生徒たちも(全校生徒を前に)、北沢先生のパワーに巻き込まれて、すばらしい発表ができました。
本当のことを申しますと、私は非常に不安がありました。本校は今まで性教育に関して消極的であり、タブー視していた面があります。よって生徒たちも十分な性教育を受けておらず、“いきなりの指導で大丈夫かな”というのが正直の気持ちでありました。しかしながら、私たち自身が大きな間違いをしていたようです。
予備授業やピアエデュケーション(上級生が下級生に教える学習法)の生徒たちの様子から、性教育に対する考え方を180度転換しなければならないと痛感。エイズや性に対して純粋な気持ちで取り組んでいる生徒たちの姿を通して、人間教育である性教育を小手先や上っ面の言葉でなく、真正面から取り組んでいこうと考えております(後略)」。
生徒たちと先生方のギャップが浮き彫りにされたのも興味深いことですが、このように、指導者側の意識が変わるのもまた、性教育出張授業の成果であり、醍醐味でもあるのです。
次回は、『コンドームの正しいつけ方10カ条』にまつわる抱腹絶倒のエピソードをお伝えしましょう。
コンドームの正しいつけ方10カ条
1. 使用期限を確かめる。
2. 持ち運びはハードケースで。
3. 爪は切ってあるか。
4. 袋の中央に入っているコンドームを下に寄せる。
5. 切り口は、いっきに切り取る。
6. 裏表を確かめる。
7. 精液留めの空気をぬく。
8. 静かに巻きおろす。
9. 射精が終わったら、速やかに撤去する。
10.生ゴミとして処理する。
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