北沢杏子のWeb連載
第40回 私と性教育――なぜ?に答える 2007年6月 |
障害をもつ人びとの性 Q&A その1
先月に引き続き、「障害を持つ人びとの性の悩み」について書くことにしましょう。
近く講演に行く「障害者地域生活支援センター」他からの、支援者や保護者からの質問ですが、“障害をもつ成人男性が性風俗店を利用することは可か不可か”と、いつも意見が分かれて指導も支援もできず困っているというのです。
「性欲を抑えきれない男性には、性風俗店利用も認めてよいのではないか?」の意見に対し、「性風俗(性の商品化)自体よしと認められない。支援として性風俗店利用を是認するのはよくないのでは?」という対立意見です。
さらに「海外では“セックス・ボランティア”に補助金までつけて、障害者の性の支援をしている国もあると聞いているが、北沢さんの意見は?」という質問まで送られてきました(ちなみに私の講演は、事前に対象者たちから質問を寄せてもらい、そのニーズに合わせて私が製作したビデオを見せたり、講話をしたりしているのです)。
10年ほども前になりますが、関西で講演をしたとき、同じような質問が出て会場が混乱したことがありました。「デンマークでは、障害者の性的な問題行動の治療になるなら、買春も許されており、その費用も地域自治体が負担しているそうだが……」。「先日、来日したデンマークの障害者の性教育第一人者ヤーン・ブッテンシューン氏の講演を聴いたが、そのとおりだった」という声が会場から上がり、「そんなはずはない」と主張する私との論争までに発展したのです。
論争の末、私は会場に向かってこう発言しました。「では、私がデンマークに行ってブッテンシューン氏に会い、はっきりしたことを聞いてきましょう。そして、次の講演会の席で報告します」と。その年の秋、私はデンマーク・オーフス市に彼を訪ねました。
ブッテンシューン氏は、日本でいう養護学校高等部校(といっても年齢は10代から高齢者まで)の校長先生で、セクソロジスト(性科学者)として、デンマークでは知らない人はいないという人物です。
彼は私の質問に、笑いながら答えました。「通訳の日本語が上手でなかったか、メディアがセンセーショナルなねつ造報道をしたのでは?」と。そして、日本での「障害者の治療になるなら性風俗店も可」という誤解を正してほしいと訴えました。
ブッテンシューン氏(左)にインタビューする北沢杏子
デンマーク政府・社会省は1989年、『障害の軽重にかかわらず性の権利と支援を』という内容の指針を出しました。
障害をもつ人ももたない人も同じように「自分の生き方はは自分で決める権利」を有し、性に関しても自己決定する。自己決定が難しければ、支援者や保護者は、その指導と支援をする義務がある――という世界でも初めてといわれる政府レベルのガイドラインです。ブッテンシューン氏は、このガイドライン作成に加わった一人でもありました。
デンマークでは、このガイドラインに合わせて、心身に障害をもった子どもたちが思春期を迎え、性的欲求を抱くようになったら、性指導のためのビデオを見せたり、男女交際のマナーやデートの練習(ロールプレイなど)を積み重ねた後、施設や作業所、グループホームの障害をもつ人びとの交流を目的としたパーティーや旅行を企画します。
こうしてカップルができたら具体的な避妊法(子宮内挿入避妊具IUDや経口避妊薬ピルの服用)を行なうと同時に、性的パートナーへの責任についても指導します。そして……(次号につづく)
―― 障害をもつ人びとの性についての質問をお寄せください――