北沢杏子のWeb連載

第43回 私と性教育――なぜ?に答える 2007年9月

 

東南アジア・太平洋諸国および南米諸国6カ国の思春期保健教育  その2

 先月は、ソロモン、バヌアツ、ニカラグア、ボリビア、アフガニスタン、カンボジアの6ヵ国から私共のアーニ出版ホールに研修にきた「思春期保健」に携わる行政関係者やNGOの若者たちの様子をお伝えしました。今回は、その続きです。
 この研修会は国際協力機構(JICA)の委託で、家族計画国際協力財団(JOICFP)によって毎年行なわれているもので、私は期日が決まると、事前にそれぞれの国の思春期保健に関する問題点、その原因、解決法などのアンケートをとってから講座を始めることにしています。

 アンケートの中の各国の「問題点」の回答は、
 若者の初交年齢の低下/若者の望まない妊娠/若者の安全でない人工妊娠中絶と高い死亡率(中絶が非合法の国もある)/若者の安全でない性行為/若者の性感染症とHIV・エイズの増加/早婚による若すぎる母親・父親/若者のドラッグ・アルコールの乱用……などでした。
 次に上記の問題点の「原因」として、
 若者の非雇用(就労率が低い)/教育制度の不備(識字率が低い)/学校中退者の増加/性的搾取に利用される若者たちが少なくない/若者の暴力・非行……となっています。
 南太平洋諸国には無数の小さな島があり、そうした島々に学校を建てて運営するのは難しいでしょう。また、これといった産業もなく、子どもたちが人身売買の対象にされるであろうことは、想像に難くありません。
 今世紀のグローバルな経済システムは、こうした最貧国の若者たちの上に、特に性の諸問題として容赦なく降りかかっているようです。
 
 では、「解決法」として今回の研修会で学びたいことは、どんなことでしょうか?
 コンドームの正しい使用法を含む避妊法/SRH(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス=性と生殖に関する健康)を知らせる機会をどう工夫するか?/SRH情報とサービスを行なうクリニック・指導員の充実法は?/経済的貧困による教育不足および意識の欠如をどうするか?/ドラッ
グ・アルコール乱用の知識の普及法/保護者への家庭での
サポートの啓発は?……などでした。
 これらの思春期保健に関する問題点、原因、解決法を検討してみると、日本の10代にもあてはまるものがいくつもあるのに気づきます。研修生たちは口々に叫びました。「国の政策が若者に向けられていない!」と。

 「性は人権である!社会的弱者(子ども・若者・女性)への従属と服従を強いる現状――差別・不平等、家父長制、宗教的制約他――を改革し、すべての人びとが、強制や暴力を受けることなく、性と生殖に関する決定を行なえる権利を獲得すること。すべての人びとが、これらの権利を責任をもって行使できるよう、政府は政策を行なわなければならない」が、結論でした。

 そして、さらに具体的な解決法、改善法を発表しあいました。
1.それぞれの国における急激な西欧化にどう対応するか?
2.同年代のプレッシャーに弱い若者たちの実態調査と啓発活動を行なうべきだ。
3.男性優位主義が、社会的・文化的障害となっている。ジェンダーの平等を推進する方策を考えなければ……。
4.非雇用による不安定感が、自己肯定できない若者たちを再生産し、非行、暴力、ドラッグの乱用に繋がっている。
5.若者たちの潜在能力を引き出し、自己決定への自信を得させること。そして、彼らが自分の望む人生を生きられるよう、支援に力を尽すべきだ。
 以上ですが、これも日本の10代にあてはめられる解決法、改善法といえそうです。

 安倍総理の「美しい国」日本にも、ワーキングプアーと呼ばれる若者たち、ネットカフェで寝泊りして定職に就けない若者たちがいます※。「国の政策が若者たちに向けられていない!」6カ国の人びとが叫んだように、私たちも、それを叫ばなければならないのではないでしょうか?

※ ネットカフェ難民:24時間営業のインターネットカフェ、マンガ喫茶で寝泊りし、日雇い派遣などで不安な暮らしを強いられている若者たち。厚生労働省は、その実態調査結果を公表した(2007年8月27日)。それによると、「ネットカフェ難民」と呼ばれる「住居喪失者」は全国で5,400人。その半数の2,700人が、日雇いなどの非正規雇用者だった。

コンドームの正しい使い方を実習する研修生たち


 

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