北沢杏子のWeb連載

第44回 私と性教育――なぜ?に答える 2007年10月

 

発達障害児・者への理解と支援―LDやADHDは障害ではなく、人類の進化では?―


 中学3年生の溝井英一朗くん(15歳)は、知的障害を伴わないLD(学習障害)とADHD(注意欠陥/多動性障害)を併せ持つ発達障害児。ところがその弁舌さわやかなこと、ボキャブラリーの豊富なこと、筋道の通った話の構成など驚くばかりの少年です。
 私が代表を務める「性を語る会」主催のシンポジウム(2007年7月7日)では、英一朗くんのお父さん、お母さん、弟さん(小5)の一家4人がスピーカーとして、発言してくださったのですが、ここでは英一朗くんにしぼって紹介しようと思います。

■母から障害を知らされて―― 
 僕は溝井英一朗です。中学3年生で、LDとADHDの2つの障害をもっていますが、毎日楽しく過ごしています。小学校4年生ごろまで、何も知らされていなかったのですが、ある日、パソコンをしていたときだったか、母に呼ばれて話をされたんです、「あなたにはLDがあるのよ」と。
 そのとき正直ホッとしましたね。やっぱり知っているのと知らないのとでは全然違います。小学校2年の頃、ただ「何々ができない」と言われていたのと、自分には(できない)原因があるとわかるのとは違う。そのときは両足についていた足かせがとれたような気がしました。
 小4のときに全先生といういい先生がついてくれて、「LDとしての支援」が始まり、すごく楽になりました。僕にとっては、支援の先生が褒めてくれたのが大きかったです。褒めてもらえるとすごく自分の力になります。なにか湧き上がってくるものがあるんです。
 「先生」は、先に生きているという字です。自分より人生の先輩としていろんなことを教えていると思うんですが(笑)、先生には(こうした障害の真実を)知っておいてほしいですね。先生は学校にいる間、もっとも長くつきあう存在なので理解しておいてほしいです。

■僕の毎日、希望が見える!
 それまでは自分が生きていく、前に進むのが精一杯でしたが、中学3年生になると、さらに自分で道を選んでいける。そうすると僕はあっちに行きたい、こっちにも行きたい、と迷えるようになる。自分で迷えるのはとても嬉しいですね。そんなふうに考えると僕は優柔不断のほうが好きです(笑)。
 迷って、迷って、迷ったあげくにたどりつくものは何かを自分で考えたい。最終的に自分の道を見つけていきたいです。お金とか、そういうのは問題ではないです。自分で選んでいきたいというのが一番の希望です。具体的に言うと、教師になってみたいとか、テレビや芸能にも興味があったり、ものをつくるのが好きなので義肢装具士。柔道をやっているので警察官になりたいなんて夢もありますが、自分には何々ができるかもしれないとか、そういうことが、いまどんどん出てきています。
 LDとかADHDは障害なんでしょうか?逆に進化じゃないですかね。LDはできること・できないことにデコボコがあるでしょ?たとえば僕は字が書けない、しゃべるのは得意なんですけど。小さな升目に字を書こうとするとはみ出すし、誤字・脱字が多い。自分より成績が悪いと思うような子がいて、その子のノートをのぞいてみると、やっぱり僕のほうが下手なんですね。絵を描くときも、マスは考えないで描いて、結局入りきらなかったみたいなことがよくあります。

■人類は進化してきた!
 でも、さっきから考えていたんですけど、昔から生きものは環境に適応して自らを変えていったりして進化してきたと思うんです。だから人間もどこかずば抜けたところを使って、その人はそこをどんどん使って前に出ていくべきだと思います。他にできないことがあっても。なんでかというと、パソコンが出てきましたよね、1960年代ぐらいから電子機器が出てきて、文字を書くことや計算ができる便利なものが出てきた。だったら読む力、書く力はいらないんじゃないか。
 (LDは)その部分が退化しているとおとなは言うけど、そのかわりパソコンとか扱う力は若者の方がすごいじゃないですか。ぼくも含めての若者ですけど(笑)。パソコンとか使えるのでそっちに適応して、「もっともっと前に進んでいこうよ」という想いを、生きものとして人間として本能的に察知して、より前に生きようと進化する形がLDやADHDじゃないかと思うんです!
 ぼくは、「進化」の当事者として、もっとこれから先を見ていきたいし、いろいろな夢がふくらんでいるけど、まだまだ世界は変わっていくと思うから、また次の機会に話しにきたいと思います。

■英一朗くんの生き方を讃えたい!
 英一朗くんが「昔から生きものは環境に適応して進化してきた。生きものとして進化する形がLDやADHDじゃないかと思うんです!」と発言したとき、その論理に会場は一瞬唖然。そして拍手が巻き起こりました。今後も科学、医学の進歩に伴って、さまざまなことが研究・判明され、いちいち「なになに障害」という名がつけられていくのでしょうか?そうしたことへの毅然とした抗議を英一朗くんは示したのです。
 彼にこうした自信を持たせたのは、『チューリップ 元気の会』という同じ悩みを持つ母親たちの会を立ち上げたお母さんの啓子(ひろこ)さん。『チューリップ おやじの会』の呼びかけ人であるお父さんの敏幸さん、続いて『祖母の会』までつくっちゃった英一朗くんのおばあちゃん、自閉症(実際には 自開症)の弟、英貴くんという、家族挙げての奮闘と協力の結果だったのです。
 LD/ADHDに限らず、すべての障害をもつ人びとへの応援歌―勇気の湧き上がる今回のシンポジウムの一部をお伝えしました。

人類の進化と脳の発達(授業セット「大脳のはたらきとこころ」より)


 

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