北沢杏子のWeb連載
第48回 私と性教育――なぜ?に答える 2008年2月 |
アフリカ8ヵ国研修生の 性に関する質問と講座 その2
先月は私共アーニ出版ホールで行なわれたアフリカ8ヵ国(ベナン、ブルキナファソ、ガーナ、マダガスカル、ナイジェリア、セネガル、タンザニア、ザンビア)からの研修生を迎えて、性教育講座の前段階としての各国諸民族の文化、宗教、中絶が合法か非合法か、HIV/AIDSの感染・発症率などの調査報告と具体的な質問を紹介しました。これは毎年、国際協力機構(JICA)の依頼によって、私が行なっているものです。
研修生たちからの沢山の質問の中から、ブルキナファソのQ. 12歳以下の子どもたちへの性教育・HIV/AIDS教育はの方法は?を前半に、ナイジェリアのQ. 10代の望まない妊娠と中絶、STD感染予防教育は?を後半にプログラムを組み、紙芝居や人形劇、ビデオ上映、ロールプレイなど視覚に訴えるものを中心に進めました。
研修生たちは、各国の保健行政の指導的立場にある選ばれた女性たちですが、実に陽気で率直で活発な人たちです。紙幅の都合で紙芝居の場面を主に再現してみましょう。エイズの紙芝居は、去年のアフリカ研修生たちが考えたストーリーを、アーニ出版美術部が紙芝居に仕上げたもので、これをパワーポイントでスクリーンに大きく映写しながら、一枚一枚解説していきます。
紙芝居が始まる合図は、日本では拍子木をカーチ、カーチ、カチカチカチ……と打つのですが、相手はアフリカの人びとなので、私が性教育専門家派遣員としてチュニジアに派遣されたときに記念に貰ったアフリカの太鼓を、研修生の1人が打ち鳴らしました。もうそれだけで、どんなお話が始まるのか、みんなワクワクしながらスクリーンを見つめています。
ストーリーは、10代の少女が2人の男の子に言い寄られて、コンドームを用意していないハンサムボーイとセックスをしてしまいます。宗教の戒律の厳しい国では男女別学で、交際もタブー。交際が発覚した少女は退学を命じられます。田舎の親の許に戻った彼女は妊娠しており、HIVにも感染しているようです。庭に穴を掘って板を渡しただけのトイレで、下痢をしているところを母親が心配そうに覗いている場面――ここでアフリカの太鼓をド、ド、ド、ド……と鳴らすところなど、危機的表現は日本人よりも上手でオドロキでした。
次の場面は、家父長制の部族社会ですから、娘の不行跡に対して、親族の長老たちによる会議が開かれ、彼女は家から追放されてしまいます。苦労の末、彼女がたどり着いたのは「女性救援センター」でした。彼女はそこで、無事に赤ちゃんを産み、職業訓練センターで自立の道を歩み始めるといったハッピーエンドです。
けれど現実は、HIV/AIDSの発症を防ぐ薬は高価で、アフリカでは容易に受けることができません。現在、世界中で4,000万人といわれるHIV/AIDSの患者・感染者のうち、発症予防の薬が飲めるのは、日本を含む先進国の人びとだけで、全体の僅か5%といわれています。
研修生たちは自国の貧困とそれ故の売春、また、識字率の低さによる迷信や患者・感染者への差別、偏見について口々に発言しました。
私が東南アジアやアフリカ、その他の貧しい国々に行くたびに感じるのは、この貧困や部族間の紛争、人身売買や売春、HIV/AIDSの拡大などの遠因は、何世紀もの間、植民地にされ宗主国から搾取され続けた結果だということです。というわが国も、過去に朝鮮や台湾の地を植民地にしてきたのでしたが……。
ロールプレイで助産師を演じる研修生たち