北沢杏子のWeb連載
第53回 私と性教育――なぜ?に答える 2008年7月 |
10ヵ国の研修員とのワークショップ報告
アフガニスタン、ウガンダ、バングラディッシュ、マーシャル諸島、バヌアツ、カンボジア、ホンジュラス、ニカラグア、ボリビア、リベリア――の10ヵ国の思春期保健研修員が、今年も私共のアーニ出版ホールにやってきました。この原稿を読んでくださるみなさんの頭の中の世界地図で、これらの国々がどのへんにあるか?おわかりですか。
この講座は国際協力機構(JICA)の委託で、家族計画国際協力財団(JOICEFP)によって毎年行なわれているものですが、今年は日本で販売されている世界地図を研修員たちに見せながら、思わず笑ってしまいました。というのも、私はランドリー社版の世界地図を持っていますが、それには、日本は極東に位置しており、研修員のみなさんも、はるばる極東の国にやってきたと感じています。なのに私が示した日本版の世界地図の日本は中央に位置しており、南米から東南アジアからアフリカから、中央に向かって集まってきたように描かれているのです。学校教育では、いろいろな世界地図を見せるべきだと痛感した次第です。
さて、いつも講座の事前に各国の思春期保健における問題点を提出してもらうのですが、アフガニスタンとリベリアの研修員の「長年の戦争が保健分野に大きく影響いている」との報告には胸が痛みます。戦争・紛争の続く国々では、当然、思春期保健などはあとまわしになるでしょう。また各国とも、早婚の慣習/10代の妊産婦の死亡率の高さ/非衛生的な中絶による死亡/10代のHIV感染・アルコールおよび薬物乱用……と、問題は山積しており、なんとか解決したいという研修員たちの熱意が伝わってきます。
ちょっと首をかしげたのはマーシャル諸島の報告で、「自殺予防国のため主要な島々に水兵が大勢入ってくる。これに対しセックスワーカーが激増、それへの対策(HIV/AIDS感染予防対策か?)を展開している」と。
質問しそびれたのですが、無数の島々が点在するマーシャル諸島には、海に飛び込んで自殺しやすいとして、世界各国から人びとがやってくるのでしょうか?それを防ぐために国連の海兵隊が詰めており、その兵士にセックスワーカーが群がるのでしょうか?なんだかミステリアスな報告ですね。
研修員たちの私への代表的な質問は以下です。
性教育に反対の文化的、宗教的、社会背景の中で、どのように思春期のリプロヘルス教育を推進したらよいか?/子ども、10代の若者、教員、保健師、医師、障害児・者、保護者(親)、同性愛者に、適切な性教育をどのように行なうべきか?/若者へのコミュニケーション――心をつかむ最も適切で容易な方法は?/若い男女が金銭で性を売る状況がある。若い男女や性を買う男性側にどのようなメッセージを発したらよいか?/(北沢さんが)性教育反対の現況にあるにもかかわらず継続している秘訣は?/性教育を実施する人間に必要な資質は?/性教育教材開発のプロセスを具体的に教えて……など。
今回も感心したことがいくつかありましたが、その1つは、ジェンダー・バイアス(刷り込み)への確かな批判でした。例えば、私が使う教材の中に、研修員にロールプレイで演じてもらう「あかちゃんが生まれるお母さん人形」があるのですが、生まれてくるあかちゃんは、女の子と男の子の二卵性双生児なのです。「なぜ性の異なった2人のあかちゃんが生まれてくる教材にしてあるか、わかりますか?」ときくと、「ジェンダーの問題提起でしょう」と素早く答えました。日本の教育界の指導者の方々よりも、途上国の人びとのほうが、ずっと理解度が深いことがわかり感無量でした。
10ヵ国の研修員と、中央 北沢