北沢杏子のWeb連載

55回 私と性教育――なぜ?に答える 2008年9月

 

「プライベートゾーン」と「前頭前野」によるコントロールを織り込んで  そのT


 先月(2008年8月)、ある県の小・中学校養護教諭全県研修大会の講師として招かれました。全県の養護教諭740名を公的な「研修大会」として一堂に集めるには、県教育委員会 共催・後援のお墨付きが必要とあって、実行委員会は必死。私への講演内容の連絡も3ヵ月前から始まりました。先生方の希望の講演のテーマは『発達段階に応じた こころとからだの学習の模擬授業』ということだったので、当日は大会場の舞台全面に10脚のホワイトボードをずらりと並べ、小学校低・中・高学年、中学校各学年対象のアーニ出版製作の教材を貼り巡らせての講演です。

 模擬授業を受ける児童・生徒役には養護教諭が数人ずつ舞台に並んで、それぞれの年齢にあった質問をし、私が教材を使いながら答えていきます。また、参加形式の授業を再現するために、のどぼとけや乳房、わき毛、性毛などの部分パーツを、児童に扮した先生たちに渡し、それぞれが間違った部位に貼ったり、慌てて貼りなおしたりで、会場を埋め尽くした養護教諭たちは終始爆笑!(受講者が多いので、模擬授業の様子は、そのまま大型スクリーンに映し出される形をとりました)。こうして講演は、いのちのはじまりから、性感染症(HIV/AIDSを含む)防止へと予定通り進みました。

 今回の講演で困ったことは、いまや全国的な性教育バッシングの波が、この県にも押し寄せており、あらかじめ、模擬授業の中でのペニス・ワギナ・二次性徴・性交・経腟分娩は禁句と釘を刺されていたことです。
 “言葉狩り”ともいえるこのような禁句だらけの中で、どのようにして「いのちの大切さ」や「HIV/AIDS感染予防」を教えることができるのでしょうか?これは当日の養護教諭の方々の最も多い質問でもあったのです。

 子どもたちへの性教育にあたって、私はプライベートゾーンの意識をしっかり身につけさせることこそ最重要だと考えています。そこで、小1、中1、成人男女の教材(下の写真参照)は、あらかじめ水着を着けています。「どうして水着を着ているのかな?」と低学年児童に扮した先生たちに訊くと、「恥かしいところだから」「他人に見せてはいけないところだから」「大事、大事なところだから」などの声が返ってきます。これに対しての私の答えはこうです。
 「いいえ、私たちのからだには、どこも恥かしいところなどないし、特別、大事、大事なところもない。からだは全部大切。でも、特に水着を着けているところはプライベートゾーンといって、“わたし自身のもの、ぼく自身のもの”――自分の意思に反して他人に見せたり見せられたり、触られたり触ったりしてはならないところなのです」と。

 児童・生徒への近親者による性虐待や見知らぬ男や教師によるセクハラ、大学でのアカハラ(アカデミック・ハラスメント)、職場でのパワハラ(パワー・ハラスメント)……いや、援助交際をする女子生徒も、DV夫や恋人による強制的なセックスも、この「プライベートゾーン」の信念を幼い頃から身につけさせ、きっぱりと拒否することが、いま、性教育の上で最も重要な課題だと考えているからです。
 ですから、講演当日の模擬授業でも、水着を着けた教材でプライベートゾーンの意味を教え、次に水着をとって、からだの発達のパーツを貼っていくという形をとったのでした。
 次回は、同じ講演の中で大脳の教材を使った性欲のコントロールの模擬授業の様子を紹介しましょう。


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