第6回 
  私と性教育─なぜ?に答える

 



ロールプレイU──娘(北沢)と母Bの会話

 

2004.8

 

性を語る会代表  北沢杏子

 
       
 

  先月は、私がHIV/エイズの授業で教えている『コンドームの正しいつけ方10カ条』に対し、児童・生徒が明るくユーモアたっぷりの反応を示した実例をお話しました。今月は、私が代表をつとめる「性を語る会」主宰のシンポジウム『10代に知らせたい!性感染症とエイズ』の会場で行なった10代の娘とお母さんの会話のロールプレイ(役割演技)の様子を紹介しましょう。

 場面設定は、「高校生の娘の様子が気になる、ボーイフレンドもいるようだし、望まない妊娠や性感染症も心配。母親としてどう"声かけ”をすべきか」というもの。会場から挙手して母親役になってもらい私が娘役を演じました。

ロールプレイT──娘(北沢)と母親Aの会話

 あなた、ボーイフレンドと一泊旅行に行きたいって言うけれど、ママになる用意はあるの?

 ううん、子どもは産みたくない。

 セックスしたら子どもはできるのよ。何もしないで帰ってこられるとは思ってないよね?我が家では、結婚前の一泊旅行は認めておりません。

 日帰りならいいの?

 いいえ、時間があったら人間、なんでもするものよ(笑)。あなたの友だちの性行動を見ていても「危ない」って思っています。ママになりたくはないけど、セックスはしたい、彼もしたい。あなたはどうなの?

 彼が好きだから、しようかなって思ってる。

 ほんとうは気がすすまないんじゃないの?

 ちょっと興味がある。

 ちょっと興味があるぐらいで、いまからママになったら、困るでしょう。大学に行きたいのよね?妊娠しないセックスってあり得ない、よく考えてみて。

 もし、妊娠したら中絶するもん。

 え、いまからもう頭の中で中絶を考えてセックスするという、そこまでこわい思いをしているって、彼は知っているの?それに、お金の負担はどうするの。

 いくらかかるか友だちから聞いているし、貯金もあるから。

 お金のことだけで解決できるのかな。

 こころも痛むかもしれない

 からだもこころも傷ついて、ぜったい忘れることはできないよ。自分があかちゃんをあきらめるとわかりながらセックスしてしまう自分──それを認められる?

 ママはどうだったの?

 ママの場合は、結婚まではしないという了承があった。彼の口癖は「自分はオスではない、人間である。きみとはずっと一緒にやっていきたいから」と言っていた。

 フーン、その彼ってパパのこと?

 話をそらさないで!愛があっても性感染症や望まない妊娠は防げないのよ。いまは時期ではありません。自分で責任が持てるまでセックスは待ちなさい。

 (独白)うざいんだよ〜!

 愛っていうのは育むもので相手があなたのからだを心配してくれるなら、そのステップや決断は大切だと思う。

 育むって?

 育むっていうのはコミュニケーションだと思う。彼を、どんなときに好きって思うの?

 彼のことが、いつも忘れられないとき。

 だからって、セックスがイコールではないと思うよ。

 もっと接近したい、他人みたいじゃなくしたいの。

 そうか、もっと親しくしたいわけね。そう思うことは素晴らしいけれど、それには責任が伴うわけ。例えば妊娠とか性感染症とか。現実を話しあわなくてはいけないと思う。

 “待ちなさい”っていうこと?

 それを決めるのはあなただけど、私の経験から言うと、お互いの人間関係を大切にして、もっと話しあってほしい。

 愛があってもダメ?

 お母さんはね、名前が愛子。人を愛することはとても大切だけれど、愛は深いもの。おとなになるというのはゆっくりおとなになること。お母さんは真剣にお父さんを愛した。

娘 (独白)きもーい!

 男は車のエンジン、いつでも燃えていて、そこで女の人が利口になって、燃えているエンジンに水をかけるのよ(笑)。

 フーン、それで?

 例えば、お父さんが手をつないできた。でも、手をつなぐことにもお母さんは時間をかけた。それは相手を失いたくないから。ほんとうにいい人に出会った。でも、すぐにセックスしたらダメになるという方程式を作った。「そういうのはほんとうの愛ではないような気がする」と自分で勉強したの。本を読んで、愛の深さを。セックスだけが愛じゃないし、いろいろなものを自分の中で広げていって成長していく。それを「愛」という名で、自分自身で育んできた。

 なんかの本で読んだような気がするけど。

 結局、お父さんは1年待ってくれた。それで私はこの人は一生の相手となる人だとわかったの。愛っていうものは深いと思う。人を好きになったら、本を読んだり、いっぱい勉強しなくちゃいけない。

娘 (独白)うざいんだよ。

母 男はいつも燃えている。女は男が燃えたら水をかける役。
 女のほうが高尚なの?

 ママは公式を作った。女の人はこころイコールからだ。男はからだから始まってプラスこころ、そしてからだ。だからいま、あなたは、公式で言ったらこころがもっと育たなくてはいけない。女は、こころから始まりなさい。男が手をだしたら水をかけて自制心を促すべきですよ。

 母子の会話のチグハグさがよくわかったでしょう?次回は10代の男子と父親の会話を紹介しましょう。


「私と性教育なぜ?一覧」へもどる   

トップページ「北沢杏子と性を語る会」へもどる