北沢杏子のWeb連載
第60回 私と性教育――なぜ?に答える 2009年2月 |
エイズ問題から見えてくる 各国 お国事情 そのU
前回の「中国のHIV/AIDS問題」に引き続き、今回はアフリカのブルキナ・ファソ、ベナン、ガーナ、エチオピア、マダガスカル6カ国のHIV/AIDS問題について書きましょう。
アフリカのエイズ問題は貧困によるインフラの未整備、医療基金・機関の不足、就学率(識字率)の低さ、そして部族間紛争と宗教的対立などと密接に繋がっており、その遠因は、長期にわたる先進諸国の被植民地として搾取され続けたことにあると言えるでしょう。
言語一つとっても、フランス語、アムハラ語、英語、アシャンテ語、マダカスカル語、ベンバ語と、かつての宗主国語と民族語、さらには複数の部族語が使われており、『エイズ予防キャンペーン』の徹底がいかに困難かが想像できます。
宗教も、旧宗主国によるカトリック、プロテスタントに加えて、イスラム教、エチオピア正教、部族宗教と複雑であり、また、伝統的な男性優位社会で、女の子の性器切除、一夫多妻制なども温存されて、HIV感染拡大に拍車をかけているように思えます。
マダカスカルを例に挙げてみましょう。私は日本・国際協力機構(JICA)の委託で、毎年6月と11月に発展途上各国の研修員への講座を受け持っているのですが、いつも事前に、その国の問題点の聞き取りを送付してもらっています。マダカスカルは1960年にフランスの植民地から独立したアフリカ大陸の南西、インド洋に浮かぶ面積58万7000km2の巨大な島です。
驚かされたのは、今回のマダカスカル情報――「欧米からの観光客が押し寄せる海岸地域の少女たちは、相手が白人ならどんな値段でもSEXをする。またその母親も(白人の)観光客相手に売春することを名誉と思っている――これがHIV感染拡大の大きな要因」というものでした。
そして解決策として「貧困から脱却して教育を受けることこそが性感染症への認識を深め、行動の変容を促す。遠回りのようだが、HIV/AIDS予防は、就学の徹底と学校における教育にかかっている」と、つけ加えられていました。
研修会当日には、全員から「“7〜13歳”、“14〜19歳”の少年少女に対し、“学校”で、“家庭”で、どのような性教育、エイズ予防教育を行なうべきか?」との質問が寄せられました。
私は今日までずっと、小学校低学年からの発達段階に応じた性教育の実践は「保健行動」の意識を高め、行動の変容を促し、ひいてはHIV/AIDSを含む性感染症予防に繋がる――と主張し実践してきました。
しかしここ数年、日本の学校での性教育は、厳しいバッシングに遭って、ほとんど行なわれなくなっています。その結果、毎年1,000人を超えるHIV感染者の増加が続いており(厚労省エイズ動向委員会報告)、年間推定3,000人が感染しているだろうと、同研究班は発表しています。
話を研修会に戻して……アーニホールは、ぐるりの壁面がすべてマグネット式に作られており、そこに常時、発達段階に応じた性教育教材が展示されているので、研修員に児童・生徒になってもらい、それを使っての「7〜13歳」「14〜19歳」の性教育模擬授業を行ないました。
また、「学校」と「家庭」での性教育については、研修員たちに即興のロールプレイを演じてもらいました。アフリカの人びとは(いつも感じるのですが)、行動的で明るく、すばらしい表現力をもっています。
HIV感染予防のためのコンドームの「正しいつけ方10カ条」を教える教師、そこに怒鳴り込んでくるPTA会長、オロオロと仲介役の校長先生……大揉めに揉めているところへ、PTA会長の16〜17歳ぐらいの息子と恋人に扮した2人が手をつないでやってきて、母親を説得するというストーリーに、会場は拍手喝采となりました。
日本の性教育の後退状況を振り返り、アフリカの研修員の自由な発想と意気込みを、逆に学ばせてもらった1日でした。