北沢杏子のWeb連載
第61回 私と性教育――なぜ?に答える 2009年3月 |
10分間でできた「禁煙教育」報告
全国学力テスト、英語の授業の導入、さらに中・高一貫校の受験を目指しての塾通い……小学校6年生は疲れきっているようです。教職員の方々にも、同じ理由から、文科省、教育委員会、児童の親たちからのプレッシャーがかかり、残業や過重労働を強いられているように見受けられます。
こうした現状のなか、性教育、AIDS予防教育、禁煙教育など最小限必要な「保健」の授業をどう取り入れ、それらに使う時間をどう工面したらよいか――ということから、先月(2009年2月)、私は東京のある小学校の校長先生、教頭先生から『10分間でできるタバコの害』の授業を要請され、6年生のクラスで試みました。今回はその報告です。
現在、高校生・大学生・社会人の間で大麻事件が頻発していますが、大麻の入口は「タバコ」がほとんどです。ですから、まだ喫煙経験のない小学5、6年生に禁煙教育を行うのが、「ドラッグ依存症」を防ぐのに最も効果的だと、私は考えているのです。
さて、小学生に教科以外のことを教えるコツは"簡単明瞭"であること──まず黒板に火のついた3本のタバコの絵(それぞれに、ニコチン・タール・一酸化炭素と書き入れてある)を貼ります。その下に貼る紙芝居サイズの4枚のパネルを用意しました。
ニコチンの害は、『吸えばスッキリ!吸わないとイライラ!』の場面転換のイラスト入りパネルをパタパタ動かして「タバコがやめられなくなるのは(依存症)ニコチンのせい」と強調。また、「ニコチンは毛細血管を収縮させ血流を悪くする」という例を、お母さんのおなかの中の胎児のへその緒を、タバコがぎゅっと握っている絵のパネルを見せて、「栄養がいかなくなるから低体重児が生まれるよ」と説明しました。
タールの害は、お父さんとお母さんがタバコを吸いながら、黒い液体の入ったグラスで乾杯しているイラストのパネルを示し、「これは何だろう?」とクイズ。「黒ビールじゃないの?」「ワイン?」などと児童。
いいえ!これは実は1日20本のタバコを吸う人が1年間に体内に取り込むタールの量。タールはがんの原因であることを話し、コップ1杯のタールの量が10年間では?20年間では?と問いかけました。
また、このパネルには男の子と女の子、猫までも黒い液体の入ったグラスで乾杯している……というのも、お父さんやお母さんが吸う主流煙のタールの量に比べ、まわりの家族が吸わされる副流煙のタールの量は3.4倍。「ヤバイ!」と児童が叫びました。
一酸化炭素の害は、「勉強とタバコ」「運動とタバコ」のイラスト入りパネルを使って、なぜ頭の働きが鈍くなるのか?なぜ心臓に悪いのか?を説明。血液中の酸素が、一酸化炭素ヘモグロビンに乗っ取られて酸素不足になってしまうため、勉強がわからなくなったり、心臓の負担が重くなって心臓病になる、と話しました。
最後に児童2人が正面に出てきて、両開きになる大型の「ヘビースモーカー」の絵を開き、長年の喫煙によって、どんなところががんになるのか?どんな重い病気になるのか?を読み上げました。これでぴったり10分間で終了。
はたして、ヴィジュアルな教材と単純な語り口だけの禁煙教育の効果はいかに?と心配しているところに後日、児童たちの感想文が届きました。
それには、「今日学んだことは、タバコを吸う人の主流煙より、まわりの人が吸わされる副流煙の方が害が大きいことや、タバコを吸うと肺がん以外にも21個もの病気になる確率が高いなど、学んだことのほとんどが驚きでした。絵があったのでわかりやすかったです。ぼくは、絶対吸わないぞ!」とありました。
この経験から、現在の学校の実情にあわせた10分間でできる「生命の誕生」「からだの成長」「エイズの予防」「大麻はキケン」など、10分間教材制作への意欲がいま、私の裡にむくむくと湧き上がっています。