北沢杏子のWeb連載

63回 私と性教育――なぜ?に答える 2009年5月

 

 

七生養護学校 元校長金崎 満氏の処分撤回裁判 第2審勝訴!報告


 先月報告した七生養護学校(現・七生特別支援学校、以下七生)の“こころとからだの学習裁判”1審勝訴(2009年3月12日)に引き続き、今回は、七生の元校長・金崎満先生の裁判の、1審、2審とも勝訴――の報告です。

 この裁判の概要を説明しましょう。2003年9月11日、東京都(処分庁・教育委員会)は、金崎先生に「停職1ヵ月の懲戒、校長降任の分限処分」を命じました。
 先月報告した七生の教員たちへの、他校への強制配転他の処分は、教育指導要領にない「過激な性教育」を行なったというのが、その理由でしたが、ふしぎなことに金崎先生の場合はガラリと変わって、性教育問題には一切触れず、「不適正な学級編成」、「不正な勤務や研修を容認した」ことを処分の理由にしています(それにしても、処分庁というところがあるなんて、初めて知りました!)。
 その後、都教委は「盲・ろう・養護学校経営調査委員会」を設置し、障害児学校28校、195人という前代未聞の大量処分を行なったのです。

 金崎先生は、この処分の撤回を求めて提訴。結果、1審(東京地裁 渡辺弘裁判長)の判決は、「この処分は、都教委の裁量権の逸脱濫用である」として、都に処分取り消しを命じ、勝訴(2008年5月25日)。
 続いて2審(東京高裁 大谷禎男裁判長)も、「処分は裁量権の濫用にあたり違法」と、1審判決を支持し、4月9日(2009年)、都側の控訴を退けました。都側の処分理由を検証し、真実はどうだったのかを述べたいと思います。

 不適正な学級編成?――七尾に通ってくる障害児の中には、知的な障害は軽度であっても、思春期の急激な心身の変化が現われる年齢にさしかかると、極度の情緒不安定や暴力行為、授業妨害、教室からの離脱などが頻発する子どもも出てきます。こうした児童・生徒には、個別的な対応が必要になってくるため、金崎校長と担当教員たちは、情緒の安定を最優先とした「個別指導学級」(学級定員3人の少数学級)を編成し、個人指導を行ないながらも、子どもの状態に応じて、同学年の生徒たちとも一緒に活動に参加できるよう配慮するなど、これまでの養護学校にはなかった先進的な指導形態を工夫してきたのでした。
 こうした臨機応変の学級編成の実践は、『子どもの権利条約』が定めた、個々の子どもにとって最善の利益を保障する具体的な取り組みであったにもかかわらず、都教委は、金崎先生が勝手に決めた「不適正な学級編成」と断定したのでした。

 不正な勤務や研修?――知的障害や情緒障害のある個々の子どもたちに則した個人指導を行なうためには、教員の増員や教室の増設などが必要です。しかし、それらは承認されませんでした。七生は不十分な教育条件の中で、教員らの慢性的な長時間労働によって、かろうじて持続してきたのです。
 金崎先生は校長の責任として、「過労死ライン」すれすれの超過勤務をやめ、週40時間を超えないよう勤務の割り振りを変更しました。また、教育活動に直接関係があり、教員の専門性を高める「研修の承認」も行なってきました。
 これらについて都教委は、「校長の調整権限を越えた勤務時間の調整を行なった」。研修問題についても、「(都教委の)通達、通知に違反して行なった」として、管理職から教諭への降任処分を命じたのです。

 こうした「みせしめ処分」が実施されるや、都立学校のほとんどの管理職は、教育現場の実情を斟酌しない都教委の方針に対して、従順でもの言わぬ管理職となり、その影響は現在、全国的に拡がっています。
 金崎先生の人柄については、2審勝訴の報告集会に駆けつけた知的障害のある七生の卒業生の1人が「金ちゃん(金崎先生のニックネーム)が校長のとき『一緒に学校に通って』と頼んだら『いいよ』と一緒に登校してくれた。ぼくは七生で勇気をもらった」と語っていることでもわかるでしょう。

 被告側は2審判決も不服として(判決の2週間以内に)最高裁に上告すること必至です。私は去る4月17日、別件『なくそう婚外子差別 つくれ住民票』裁判の支援のため、最高裁といういかめしい裁判所の傍聴に行ってきましたが、判決は「上告人○○の上告を棄却する」の僅か10秒で終了。この金崎裁判では、決してそのようなことにならないよう、読者の皆さんの支援をお願いします。

※子どもの権利条約 第3条(子どもの最善の利益)
1.子どものすべての活動において、その活動が公的にもしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関、または立法機関においてなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第1次的に考慮される。 (1994年4月批准、5月発効)


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