北沢杏子のWeb連載

64回 私と性教育――なぜ?に答える 2009年6月

 

 

小学生対象の「薬物乱用」防止の授業

 私が代表を務める「性を語る会」は、1987年発足以来、定期的に年4回のシンポジウムを開いており、そのテーマに沿って年4冊発行する機関誌「あなたとわたしと性」も今月で91号を数えます。今号は去る3月に開催したシンポジウム『大麻はキケン なぜ?』をテーマにしました。
 1975年から1985年にかけて、私はタバコ、アルコール、乱用薬物の取材でアメリカ、スウェーデン、ドイツ、イタリア各地を歩き、その後、国内の小・中・高校の授業を広く行なってきました。

 私事で恐縮ですが、私の家の一室に、一脚の机と一本の電話を引いて1969年に設立した性教育専門出版社アーニ出版は、今年で40周年になりました。その40年間に制作した性教育、薬物乱用防止教育、エイズを含む性感染症予防、ジェンダーの平等、国際理解、環境問題などの教育教材、映像教材は約200本、著書・訳書は120冊に及んでいます。

 今回のシンポジウムのテーマに添った映像教材は(カタログを開いてみると)小学校対象の「バイバイシリーズ全5巻(バイバイタバコ/シンナー/覚せい剤/アルコール/実験でみせる薬物の害)」に始まって、中学・高校・大学、保健センター他対象の「害シリーズ全3巻(タバコ/シンナー/覚せい剤の害)」、「大切にしよう!心とからだシリーズ全4巻(タバコ/シンナー・覚せい剤・ドラッグ/アルコール/エイズQ&A)」、「乱用薬物実験シリーズ全5巻(実験!タバコ/シンナー/アルコール/覚せい剤/コカイン・ヘロイン)と17作品。同じテーマの著書・訳書は、絵本「薬物いや!シリーズ全3巻(タバコ/アルコール/シンナー・覚せい剤)」「薬物(ドラッグ)の害がわかる本」「薬物乱用と人のからだ」の5冊となっています。しかし、こうして見渡してみると「大麻」だけは抜けているんですね。で、現在社会問題となっている大麻に焦点をあわせたシンポジウムを企画したのです。

 私は長年、実際に薬物防止の授業を行なってきましたが、小学生のうちに「依存」という概念を身につけさせることが最も重要だと考えています。
 そこで、まず、子どもたちに質問します。「やめようやめようと思ってもやめられない、やみつきになっているものは?」と。すると「ゲーム、マンガ、ケータイ、テレビ、スナック菓子……」と子どもたち。「じゃあ、やめようやめようと思ってもやめられなくて、ついつい夜更かししてしまったら?」「寝不足になる。目が悪くなる。スナック菓子ばかり食べていると栄養がかたよる」。では、どうしたらいいか?――「我慢する。どれがやみつきか自分で判断する。やみつきがわかったら、時間を決めて、途中でもやめる決心をする」と子どもたちは固い決心を黒板に書いてくれました。

 次に――「みんなの家で、おとながやみつきになっているものは?」と質問。「タバコ、メール、お酒、パチンコ、競馬、競輪、賭けごと……」「では、そういうものにやみつきになったおとなは、どうなるでしょう?」と私。「からだが悪くなる。お金がなくなる。サラ金からお金を借りて会社をやめさせられる。家族が苦しむ……」と子どもの回答も厳しくなってきます。その解決法は?――「時間を決める。家族への責任を考えて我慢する。スポーツとかウォーキングとか、もっと健康な趣味にかえる」と答える子どもたち。
 こうして、子どものうちから「依存」しない生き方、「自立」した生き方に自信をもたせることが、薬物乱用の誘惑に打ち克つ力につながると、私は考えているのです。

 人間とは、何かに依存しなければ生きていけない存在なのでしょうか?例えばお金、社会的地位、結婚、家族……確かに夫婦や家族の愛は美しく、癒されるものではあるけれども、ともすれば共依存※になりがちです。互いに「個」を尊重し「個」を侵害することなく共に暮らしていくこと――薬物の授業を行ないながら私は、子どもたちが将来とも、なにものにも依存しない自立した人生を生きてほしいと願っているのです。

※ ある人間関係に囚われ、逃れられない状態にある者。人間関係そのものに依存する状態。


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