北沢杏子のWeb連載

67回 私と性教育――なぜ?に答える 2009年9月

 

知的障害児・者への性教育
―都立七生養護学校小・中・高等部の性教育模擬授業―     そのT

 現在、東京高裁で第2審※に突入した都立七生養護学校の『こころとからだの学習』の何が悪いというのか?どこが都教委の指摘する「学習指導要領に違反している不適切な性教育」なのか?どの指導者が石原都知事の答弁の「異常な信念をもって異常な教育をする教員たち」なのか?――を、元七生養護学校の先生方に模擬授業を行なってもらい、障害児の教育に関心を持つ一般の方々に、その一部始終を観て聴いて感じて批判していただこうと、去る7月11日(09年)「性を語る会」(代表 北沢杏子)主催のシンポジウムを開きました。
 ところで、七生の先生方が工夫した手作りの教材や、授業の映像資料、年間指導計画および購入した書籍、ビデオなど百数十点は、「不適切な教材」として都教委に没収されたため、私共アーニ出版が開発した教材や、人形、専門家に注文して作ってもらった性器つき人体模型他を使って、七生養護学校での小学部から高等部までの授業そのままを実演していただきました。

 今回の模擬授業には、元七生養護学校の先生5人、卒業生2人、そして弁護団事務局長の中川重徳弁護士、全国連絡会事務局長 小林 和さんという大勢の方々が舞台に立って、授業の実演、教育効果の報告、そして裁判の今後の見通し、教育とは何かなど、熱烈なスピーチが展開されました。
 アーニホールは100名余の参加者で溢れんばかり。目の前で展開された授業のなんという優しく、あたたかく、ユーモアに満ち、障害者の目線に沿ったすばらしいものだったことか!どうぞ、ゆっくりと、舞台で再現された模擬授業の模様を想像しながら読み進めてください。いくつもの指導のヒントを得ることができると思います。

「からだうた」を授業の導入に
■「からだうた」を歌い触れあうことから――

北沢 からだの名称を覚えるための『からだうた』――リラックスして楽しく学習するために、そして歌いながらさわってもらうことで、子どもたちの「自己肯定感」を高めようと、この歌を歌うようになったそうです。会場の皆さんも一緒に歌ってくださいね。
 『からだうた』(全員が先生と生徒のペアになって、ふれあいながら歌う。優しく楽しい雰囲気がホール一杯に広がっていく)
先生A 小学部は、授業の前にこの歌を歌ってから始めていました。「これから楽しい授業が始まるよ。先生たちと気持ちのいい体験をしようね」という気持ちを込めて、この歌から始めます。
 私たちは小学部の高学年(4〜6年生)をひとつの集団にして、それをさらに縦割りの3つのグループに分けていました。そのグループの中で、言葉があまりよくわからない重度の知的障がいの子どもたちの授業を担当することになった3名の教員が「どうやれば“これから学習が始まる”ということを意識できるのかな」と話しあいました。
 歌詞を追っていくと、頭からつま先まで、からだの名称が全部入っていますね。「“こころとからだの学習”という性教育なので、ぜひプライベートゾーンにあたる言葉も入れましょう」と、高学年全体の教員で話しあいました。ペニス、ワギナなどタブー視されていた言葉を授業の中で使うことへの抵抗感が教員一人ひとりの中にありました。けれど、私たちのからだの中で、プライベートゾーンはとっても大事なところですよね。その部分を、顔、頭、手などと同じように言えないのはおかしいのではないか?そして、「男の子はおちんちんと言っていたけれど、ペニスという言い方もあるんだよ。女の子は自分の性器の名称を言う言葉はないけれど、ワギナと言うんだよ」と、言葉で教えようと確認しあいました。
 ふつう、からだについては頭、手というふうに、部位をひとつずつ教えますが、“つながっているからだ全体”がなかなかイメージできない子どもたちが大勢いる。だから“部分”で教えるのはやめようと決めました。からだはつながっていて、性器もからだの一部分である。それは当たり前のもので、恥ずかしいものではないということを話しあい、1人の音楽好きの教員が作ってくれたのがこの歌なのです。
 子どもたちは1回目の授業のときから、この歌を好きになってくれました。さわってもらいながら、自分でリズムをとってからだを揺らす子どももいました。それで、ほかの教員にも紹介したら、すごくいい歌だと言って、「言葉のわかる子どもにもこの歌を使って授業をしよう」と広がっていきました。   (このシリーズは4回連載の予定です)


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