北沢杏子のWeb連載

71回 私と性教育――なぜ?に答える 2010年1月

 

男性優位社会に「行動の変容」を促すには?

―― アフリカ、中南米各国の研修員とのワークショップで ――

 私が代表を務める「性を語る会」の研修会には、毎年、国際協力機構(JICA)の事業として、さまざまな国の思春期保健研修員がやってきます。2009年10月には、ボリビア、ブルキナファソ、キリバス、ヨルダン、ニカラグア、スワジランドからの研修員。11月には、ベナン、ブルキナファソ、エチオピア、ガーナ、ケニア、ニジェール、ウガンダ、ザンビアからの研修員が来ました。
それぞれ政府保健省の思春期保健・担当官だったり、公衆衛生・リプロヘルス・コーディネーターだったり、ユースクラブ・クリニック長といった医師や助産師、健康保険関係のIEC※/BCC※※教育担当員だったりと多様な顔ぶれです。

■各国共通の悩み
 これら指導員たちの共通の悩みは@教育の普及率が低く、HIV/AIDSの知識がゆき渡らない。Aエイズ検査や治療のための保健施設への交通の便がない。B抗レトロウィルス剤が高くて買えない。C貧困のため、若者たちがHIV/AIDSの感染率の高い国へ出稼ぎに行き感染して帰国、女性は売春婦として移動し感染を拡げている。D男性より女性の感染者が多く家族が崩壊。Eその結果エイズ孤児、ストリートチルドレンが増大。F伝統的、文化的迷信から、HIV/AIDSは病気ではなく悪霊のたたりだという噂が流れ、予防教育の効果が上がらない……などでした。
 こうした理由から、例えばケニア共和国では人口3,000万人の20%もがHIV/AIDSの感染者/患者で、労働人口が激減、生産率が落ちこむという国家的危機に直面しているそうです。

■男たちはコンドームを使いたがらない!
 質問の中に「What can we do ? Educated man in my country do not want to use a condom.(私の国では教育を受けた男性でもコンドームを使おうとしません。どうしたらいいでしょうか?)」というのがあり、講座は急きょ、行動の変容を促すためのワークショップに変更となりました。
 まず、私が男性の研修員に質問「どうしてコンドームをつけるのをいやがるのですか?」。答「ナマでないと快感が削減されるからね」。私「コンドームなしでは、パートナーの女性は、望まない妊娠やHIV/AIDSを含む性感染症の感染を恐れるあまりセックスを楽しめませんよ」。答「かまいません。女性は男性を喜ばせるべき存在ですから」。
 ……というわけで、男性優位社会の構造が見えてきました。地域によっては“ドライセックス”といって、族長が15〜16歳の少女たちを集め、「腟が潤っていると男は楽しめない。この粉を腟に塗りこんで、ざらざら感を保ち、男性に奉仕せよ」と教える慣習まであるそうで、まったくの「お手上げ」状態になりました。

■幼いときから性教育を――
 そこで研修員たちに5〜6歳になってもらって、教材を使いながらプライベートゾーンの勉強。つぎに10〜12歳になって、男女平等にやってくる二次性徴の説明。13〜14歳ではエイズの紙芝居を見せ、「正しいコンドームのつけ方10ヵ条」の実習……と進めました。
 次に行動の変容――男性が進んでコンドームを使うために、また、コンドームを使わない男性の要求には、女性がきっぱりNO !と拒否できるようになるためにはどうすればいいかという文字パネルを使っての学習に移りました。
 まず私が示したのは AIDS 男が違いをつくる ――数年前、国際エイズ共同会議が採択したキーワードで、男が進んでコンドームを使えば、世界 のエイズは劇的に減少するはず。
 次に ジェンダーの刷りこみを削ぎおとす ――女は男の快感に奉仕するべきという刷りこみを削ぎおとせば、はっきりNO !と言えるはず。
 そして 女性のエンパワーメント ――これで、女たちは力強く 自己決定 ができるようになり、いま行なおうとしている性行動が、保健行動であるかどうかの 選択力 を身につけます。
 こうして、男性も女性も 行動の変容 ――コンドームの使用を当然とする関係を築いていこう!と、めでたくこの日のワークショップは終ったのですが……他人ごととはいえません。現在日本では、年間1,000人以上のHIV感染が報告されており、患者・感染者累計数は17,000人。先進国の中でHIV感染が毎年増えているのは、わが国だけ、というのですから。
 
※ IEC;インフォメーション、エデュケーション、コミュニケーション
※※ BCC;行動変容のコミュニケーション

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