北沢杏子のWeb連載
第74回 私と性教育――なぜ?に答える 2010年4月 |
性教育、発想の転換 その1
最近の私のワークショップや講演は、保健所、児童自立支援施設、児童養護施設、あるいはグループホーム、通所施設等の職員の方対象が多くなりました。そこで、従来行なってきた小・中・高校の児童・生徒対象の場合のように、発達段階に応じて順に展開していく指導法とは発想自体を変えなければなりません。というのも、当該職員の方々の対象者は、すでに少年や成人に達した施設入所者・利用者であり、彼らの「性的問題行動に対応すべき性教育はどうあるべきか?」という要望が少なくないからです。
まず本論に入る前に、「性教育とは何か?」について説明したいと思います。私が考案した「性教育の樹」の幹の左側は、1965年から性教育をライフワークにしてきた私の理念で、現在も全くブレていません。左側の下から上へと見ていきましょう。
「からだを清潔に」に始まって、月経の手当、避妊の方法、コンドームの使い方のみの指導は処置教育に過ぎない。その上の夢精、射精、勃起、月経、性周期、マスターベーションの生理的現象のみの指導は生理教育に過ぎず、さらにその上の性交、受精、妊娠、胎児の成長、出産のみを解説するなら、それは生殖教育に過ぎないのです。
それらを教えるとき、樹の幹にある「それぞれの大切ないのちを、どう生きるか?」に如何に繋げるかによって、単なる性に関する知識から「性」が「生(生き方)」と密接な関係にあることに気づく――これが性教育の目的であると私は考え、実践してきたのです。
では、発想の転換とは、どう考えればいいのでしょうか?樹の右側を、上から下へと見ていきましょう。
現在、社会問題として浮上してきている児童虐待(虐待死児童は、心中も含めて年間100件)や望まない妊娠の中絶(年間30万件弱)、性感染症(クラミジア罹患累計数120万件、HIV感染は毎年1000余件増)、DV(DVによる年間被害者数2,471件:警視庁)、家父長制(民法“婚姻法”による非嫡出子の年間出生数は全出生数の1.9%:厚労省)を、問題提起して、左側の性教育の知識に繋げていくこと――これが発想の転換です。
つぎに中ほどに視点を移して、性の商品化と援助交際、性暴力とレイプ(性虐待)といった社会現象を問題提起し、左側の性教育の知識に繋げていくことは可能でしょう。
さらに下へと視点を移すと、高齢者の性、同性愛者の性、TG/TS(トランスジェンダー、トランスセクシュアル)への偏見を払拭し、障害者の性と愛の権利を“障害者権利条約”で学ぶ。また、HIV/AIDSの人びとがカミングアウトでき支援が受けられる社会の構築なども、性教育が果たす義務であると私は考えているのです。
こうして考えていくと、性の問題は“人権の尊重”を基本に、社会問題と大きく関わっていることに気づくでしょう。
そして、その気づきが、樹の上に掲げた保健行動の選択、ジェンダーの平等、自己実現へと繋がっていく――つまり、樹の右側の社会問題の提起から始めて、左側の基本的な性教育に繋げていく方法に、発想を転換していいくのです。