北沢杏子のWeb連載

75回 私と性教育――なぜ?に答える 2010年5月

 

性教育、発想の転換 その

 先月は、保健所、児童自立支援施設、児童養護施設あるいはグループホーム、通所施設等の職員の方々の要望に応え、「性教育、発想の転換」について、平易に記しました。今回はその実践編として、性教育の樹の活用法を説明しましょう。

 この絵は、私が国際協力機構(JICA)のIEC専門家派遣員として、アフリカのチュニジアに派遣されたときのワークショップの際に考案したものです。対象は保健関係の政府担当官、医師、保健師、NGOのメンバー等で(この仕事は現在も続けていますが)、その国々によって政治、宗教、言語、習慣、階級制、識字率の差はもちろん、出産・中絶による死亡率の高さ、いまだに残る女子の割礼(女性器切除:FGM)など、幾多の問題を抱えています。

 私のワークショップでは、性教育の樹の左側は基本的な性の知識なのでそのまま置き右側にはそれぞれの国の問題点、例えば少年非行、売春、人身売買、迷信(エイズは幼女とセックスすれば治るとか)、また、保健行政の不備、一夫多妻制の容認などを、ワークショップに参加した人それぞれが、一枚一枚の葉っぱに書いて貼りつけます。そして、数枚の葉の中央の四角の枠の中に、合議の上、その解決法を書き入れるのです。

 性教育の樹の幹の中央の理念も、それぞれの国で違うので空白にしてあり、これも合議の上、決定。最後に樹の上の5つの空欄に、その国々の問題点を解決する方策(例えば法改正や罰則の強化など)を記入し、さらに上の3つの空欄に「理想」を掲示します。
 私のチュニジアでのワークショップでは、すったもんだの4日間の討議の末に完成。ポスターとして印刷し、国内各保健所や学校に配布、展示してあるそうです。

 日本でもみなさんの要望である「性教育、発想の転換」に、このテキストは役立つのではないでしょうか?あなたの施設では、なにが問題なのですか?それを葉っぱに書き入れて分類し、貼ってみましょう。そして「解決するには?」の欄も、知恵を絞って書き込んでみてください。
 もちろん、各施設の入所者・利用者さんたちの、頭の痛くなるような性の問題は山ほどあるでしょう。また、行政の予算配分、障害者自身の一割負担といった経済的問題や、ヘルパーの一律な業務規制、保護者の問題点なども……。

 一方、各施設の職員や保健専門家側の性の考え方や偏見、障害児・者への無理解や罰則なども葉っぱに書き込むのもいいかもしれません。実際、社会復帰への訓練と称する罰則や人権軽視など、「気づかない虐待」に気づいたと、講演のあと、私に正直に言ってくださった方々もいます。

 英国の精神科医のウィニコットは「Being(ある)はDoing(する)に先行しなければならない」と主張しているとか。「こうしなさい」「こうさせたい」「それはダメ!」より、彼らの存在(自己肯定感)を否定しない「受けとめられ体験」を、彼らに何十回も何百回も体験させることで、お互いの信頼関係の構築もでき、問題行動の解決に繋がるのでは?と私は考えているのです。

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