北沢杏子のWeb連載

76回 私と性教育――なぜ?に答える 2010年6月

 

小6少女たちに性感染症の説明もなく、子宮頸ガン予防の接種始まる!

 東京都は2010年度から、子宮頸ガンワクチンの予防接種を補助対象とし、実施する区市町村に費用の半額を負担する新制度を開始しました。日本では毎年15,000人の子宮頸ガン患者が発生し3,500人が死亡しているといいます。
 子宮頸ガンを引き起こすのは、HPV(ヒトパピローマウィルス)の100種類もあるタイプのうち、16型と18型で、ほとんどの女性が性交によって感染しますが、抗体によりその90%は1年数ヵ月のうちに消失、ウィルスは検出されなくなるとか。性交体験のない女性からはHPV感染は認められないことから、性交体験前の小6〜中1の少女に、16型と18型を含むワクチンを接種しましょうというのが世界的傾向です。

 私の友人は小6の孫娘に、このHPVワクチン予防接種を受けさせるべきか否かの相談にきました。このワクチンの接種をする「理由」が話せないからだと。「あなたが、いまにボーイフレンドとセックスをすると、感染したり、それが原因で子宮頸ガンになる恐れがあるから、予防接種を受けたほうがいいと思う」などと、小6の女の子には話しにくい。といって、何の説明もなく接種するのは「少女の人権無視ではないか」と言うのです。

 実際、現場でも予防接種を行なうにあたって、@性感染症で子宮頸ガンの原因となる、と説明。A性感染症ではあるが淋病やAIDSとは異なるタイプの疾患である、とぼやかす。B性感染症の分類の中には当分記載せず、誤解が生じない社会的レベルになってから教える――というさまざまな見解があって、医療関係者は@Aを支持、教育関係者はBを支持、と分裂したまま、既に実施が始まっている地域もあります。

 栃木県大田原市では、5月13日(2010年)、小学校6年生の女子児童を対象に集団接種を開始。その費用1人45,000円(1回15,000円で3回接種)を市が全額負担。市立小23校の小6女子334人のうち、希望児329人に接種、総額3,000万円を2010年度の予算で賄うとのことです。市の福祉課は「女性の命を守ることは少子化問題の視点からも重要」と力説、来年度以降も続ける方針。予防接種を受けた女の子たちは「ガンになるのはイヤなので注射してよかった」と話しあっているとか。
 ここでも、たぶん漠然とガンの予防と説明し、少女たちは肺ガンや胃ガンなど、よく耳にするガンを想定して喜んでいるのではないか? 私は、小6の子にもわかる言葉で、性感染症であると、はっきり説明するべきだと思います。

 アメリカのACIP(ワクチン推奨委員会)も2009年10月、少女たちへのHPVウィルス16型と18型の接種を認可。更に9歳以上の男子にも6、11、16、18型を含むワクチン接種を推奨しています。
 女性の子宮頸ガンを引き起こすウィルスは、性交によって男性から感染するのですから、当然男性も予防接種を受けたほうがいいに決まっています。ただ、男子には子宮がないから、1人45,000円もする高価なワクチンの費用を、個人はもとより市町村が負担するとは考えられません。では、子宮のない男子に接種するHPV16型、18型以外の6型と11型のワクチンは何を予防するのか?
 資料によると肛門ガン、陰茎ガン、口腔ガン、咽頭ガンなどの予防効果が期待されているものの、これを確認した実証がないことから、ACIPは「希望者は接種してもよい」という立場で推奨しています。

 これらの疾患は個人の性行動というプライバシーに関連することなので、デリケートな問題ですね。いずれにしても、男性も女性も、くれぐれも注意深くあれ!と願う他はありません。


資料:毎日新聞(2010年5月14日)/現代性教育研究月報2010年5月号 千葉大学名誉教授武田敏氏論文/医療ガバナンス学会 神戸大学感染症内科山田健太郎氏論文/ポスト・グラデュエイト・メディスン2010年3月 メイヨークリニック小児思春期医学 ブルーモール、レイノルズ、ジェイコブソン論文


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