北沢杏子のWeb連載
第77回 私と性教育――なぜ?に答える 2010年7月 |
どう考えますか? 東京都の、性描写のあるマンガの法規制
18歳未満のマンガキャラクターの強姦シーン、安易な中絶や猥雑な性描写など、子どもに見せたくない『有害マンガ』を規制しようという東京都の「青少年健全育成条例」改正案※の賛否が、都議与党派(自民、公明)と野党派(民主、共産、生活者ネットワーク・みらい)の間で揉めています。
これまでは刑法(わいせつ物頒布罪)の対象は実写に近い性描写に限られ、児童買春・児童ポルノ禁止法も実在の子どもを使った作品を対象としていたのに対し、「遂にマンガキャラクターにまで及んだか?」と、自主規制しようとしないばかりか、エスカレートの一途を辿るわが国のメディア業界に溜息をつく昨今です。
上記の改正案は、2010年3月の都議会で賛否に割れて継続審議となり、6月の都議会総務委員会および本議会でも「条文が不明確(あいまい)」という理由で否決。「規制基準のあいまいさ」を指摘された賛成派は、規制に当たらないマンガの例として ●ドラえもんのしずかちゃんの入浴シーン ●サザエさんのワカメちゃんのパンチラ ●クレヨンしんちゃんのしんのすけがお尻を出すシーンなどと、思わず笑ってしまう発表をしています。とはいえ都は、条文を練り直して9月以降に再提出する構えです。
都議会での賛否両陣営の内わけは、都政では与党の「子どもを取り巻く環境の改善」(自民党)、「子どもを性的対象とするマンガを放置できない」(公明党)に対し、都政野党は「性に関する判断能力を育てることが大事」(民主党)、「規制は行政の過度の介入」(共産党)、「規制だけで子どもは守れない」(生活者ネットワーク・みらい)となっており、日本出版労組連合会も「創作活動の場で過剰な自粛が行なわれ、表現活動が萎縮する」と、改正案反対の要請文を都議会各派に提出しています。
これらの反対意見に対し石原都知事は、6月18日の定例会見で、「そんな連中(マンガ家たち)、そんなことぐらいで描けなくなった?そんなものは作家じゃないよ。(略)あの変態をね、是とするみたいな、そういう人間がいるから、その商品の需要があるんだろうけど、そんなものにおもねって反対するというのは……」と強気です(朝日新聞“石原知事の発言から”6月22日付)。
一方、保護者たちのポルノマンガ規制に対する動きはどうでしょうか?都小学校PTA協議会は、「目をふさぎたくなるようなマンガなどが書店に置かれており、子どもに悪影響を与えている」として、改正案賛成を各会派に要請。
これに対して日本PTA全国協議会は、小5と中2の保護者3,624人の回答『子どもとメディアに関する意識調査結果報告』を発表しました。
それによると、回答の第1位は「出版業界に対する、有害図書等の販売自主規制および、対象年齢表示の積極的推進」で47.6%、第2位は「コンビニや書店での区分規制の推進」で(45.2%)、問題の「行政による規制を要望」は、24.9%と第5位になっています。
いくら法的に規制しても、子どもをターゲットとした『有害マンガ』はなくならないという実体験からの回答だと思われますが、読者のあなたはどうですか?
新聞投書欄には「そもそも児童ポルノなどというおぞましいものが世に氾濫するのは、ゆがんだ需要が存在するから。親が“性”というものをタブー視し、家庭教育をしっかりしてこなかったツケが回ってきたのではないか?それらを反省するより先に“行政による規制”という動きに危ういものを感じる」とありました(朝日新聞 5月20日)。
まったくその通り!家庭教育では、親が性に対する正しい知識と認識を持って子どもに伝える。学校教育では歪められた性情報への判断能力を育てる。この2つこそ急務。
性教育をライフワークとしている私は、家庭でも学校でも正しい性教育を!と、これからも主張し続けます。
※ アニメのほかマンガやゲームなどで、18歳未満の実在しない人物(条文では非実在青少年)が登場し、強姦など著しく社会規範に反する行動を肯定的に描写した作品を「不健全図書」に指定。販売者らに、18歳未満に購入、閲覧させない対策を義務づける。従わなかった場合は、30万円以下の罰金。この改正案が可決されれば2010年10月から施行。