北沢杏子のWeb連載
第79回 私と性教育――なぜ?に答える 2010年9月 |
知っていますか?小学校『保健』教科書のエイズ予防教育
「エイズはどうしてうつるの?」ときかれたら、「HIVはきず口などからからだの中へ入ることでうつります」と、小学校の先生は答えなければなりません。5〜6年生の『保健』教科書にそう書いてあるからです。下の図と解説は、2005年4月5日の、ある出版社刊の教科書原文。
削除番号10と書いてある、傍線のところ、囲みのところに注目してください。教科書検定(文部科学省・教科用図書検定調査審議会)で“削除せよ”と指摘された部分です。
検定から15日後の4月20日、修正された教科書が晴れて採択。現在、下図が使われています。HIVが傷口から入ることなどは、医師や看護師の(注射器の)針刺し事故以外考えられないにもかかわらず、こうした教科書で、子どもたちは学んでいるのです。
修正前の教科書が検定を通っていれば、「HIVは、精液やちつの分泌液にたくさん含まれているので、『性交』でうつります」と教えることができました。
注にも、ねんまくとは性器や口の中などの……と書かれていましたから、「性的接触によってうつる」と教えることができた。しかし、改定後の教科書では「性交」は禁句です。児童から「先生、エイズはセックスでうつるって、ほんとう?」と質問されても、答えてはいけないのです。
教師用指導書には「HIVの感染経路には@血液感染、A性的接触、B母子感染があるが、この授業では児童の日常生活の場面で考えられる血液感染(のみ)を理解させる」と解説されています。
ある先生は、授業の前に、厚労省エイズ動向委員会による最新の(2010年3月28日現在)HIV感染者・患者の累計をネットで調べました。それには、感染経路がちゃんと載っていました。
HIV感染者の累計は、異性間の性的接触3,696人、同性間の性的接触※6,073人、静注薬物使用55人、母子感染32人、その他※※271人、不明1,660人で、計11,787人。エイズ患者(発症者)の累計は、異性間の性的接触2,155人、同性間の性的接触1,744人、静注薬物使用43人、母子感染17人、その他169人、不明1,285人――と。
ですから、先生は質問した児童たちに「そう、セックスでうつるんですよ」と答えたい。中学3年生で10%が、高3で45%が性交体験ありというデータからいっても、小6の子どもたちには「いまのうちに教えておきたい」と先生は考えます。
しかし、文科省の学習指導要領の病気の予防欄には、「病気の予防には@病原体が体に入るのを防ぐこと。A体の抵抗力を高めること」としか記述されていないため、「そう、いちばん多い感染経路は、セックス――性交なんだよ」と答えようものなら、学習指導要領にないことを教えた「指導力不足教員」の刻印を押され、都教育委員会から「再発防止研修」に行くよう指令されます。こうした事実を知るにつけ、学習指導要領にないことには一切口をつぐむ萎縮した教員たちが、いま、増えているのです。
下の図は、2011年4月から使う改定教科書で、「HIVが血液などを通して、からだの中に入る」とのみ記されています。
性的接触、性交、性行為が禁句のAIDS予防教育――あなたが6年生の担任や保護者だったら、どうしますか?
私は、小学校高学年向けの絵本にも教材にも、HIVは感染した人の@血液、A精液、Bクーパー腺液(酸性の尿道を中和させるために射精直前分泌し、尿道に溜っていた精液を押し出す)、C腟の分泌液、D母乳の5つに含まれていること、「性交」で感染することをきちんと書いています。
さらに、ゴムの帽子(コンドーム)で予防できることも。読者のあなたは、どちらが真に、将来の子どもの健康教育に役立つと思いますか?