北沢杏子のWeb連載
第89回 私と性教育――なぜ?に答える 2011年7月 |
災害と女性―災害時下の性暴力・性虐待・性支配―そのU
東日本大震災から4ヵ月――新聞には写真入りで「実家の両親は津波にのまれ、寝たきりだった母親の遺体がDNA鑑定で判明した。ようやく会えました。7月には両親一緒のお葬式をあげます」と、花を供える家族の姿が掲載されています。避難所での全くプライバシーの守られない生活、原発被害による集落ごとの(転々と変更を余儀なくされる)避難先への移動――こうした様子を記事や映像で目にしながら、どんなにか辛い日常生活かと胸が締めつけられる思いで過しています。
今回は先月に引き続き、1995年の阪神大震災時に神戸、尼崎、西宮の避難所の小学校体育館を、私が代表を務める「性を語る会」の関西のメンバーたちと巡回し、聴き取りと相談のワークショップを行ったときの記事「災害と女性――性暴力・性虐待・性支配にNO !を――」(2011年5月10日付「女のしんぶん」女性会議発行)の転載をしたいと思います。私への個々の相談については守秘義務があるので、巡回した各メンバーからの報告にとどめますが、あの災害時の真っ只中で、こんな性暴力が横行していたのにもかかわらず、報道は一切行われなかったのです。
■子どもたち
・避難所の体育館の照明は夜通し点灯。「明るくて眠れない」と文句が出るが、同じ避難所内の痴漢が、眠っている少女たちの胸や性器を触り歩くため、やむをえない。
・震災で職を失った10代の男女が、昼間から避難所の布団の中でセックス。幼児たちが見せつけられ、困っている。
■母親たち
・夫が出勤したあとの避難所で、乳児に添い寝していた若い母親を、外から侵入してきた男がレイプ。止めに入った巡回中の教職員が暴力をふるわれ全治一週間の怪我。
・震災のPTSDから夫との性生活が苦痛。夫の強制的なセックスが耐え難い。
・半壊の家に置いてきた犬に毎日餌をやりに行っていたところ、中に潜んでいた男に2度、3度と強姦され、自殺。
■ボランティアの女子学生たち
・避難所への道を聞いた女子学生がリュックをつかまれ、半壊の建物に引きずり込まれて強姦された。
・軽トラックで避難所にやってきた男たちが、女子学生数人に「銭湯に連れていってあげよう」と誘い、半壊のビルで輪姦。
こうした性暴力に対し、被害を受けた女性たちが勇気を鼓舞して警察に通報しても、「女性側に落ち度があったのだろう」と言われる始末。行政に訴えると、市のイメージダウンに繋がると取りあわないばかりか、「“親告罪”で訴えるなら証拠が必要。証拠はあるのか」と、追い返されたとか。
■防災フォーラム報告
2005年11月、『阪神大震災10周年―今後の防災事業に女性の視点を!』をテーマに“あすてっぷ神戸”でフォーラムが開かれ、東京からは私が招かれた。
パネラーは“ウィメンズネット・こうべ”代表の正井礼子さん他、阪神大震災の折に活躍した四人の女性たちである。紙幅の都合で私からの強い要望のみを書き止めておく。
@避難所に婦人科専用の診療室を設置せよ。A女性と子どものための専門医、保健師、カウンセラーの定期巡回を。B望まない妊娠を防ぐため、コンドームと緊急避妊薬ピル※の(希望者への)配布。CPTSDに苦しむ女性のためのシェルターの設置を。D災害時の性暴力、性被害防止のための罰則規定の制定を―の五項目である。
3.11東日本大震災後の4月、5月、6月……、阪神大震災時のような女性への性暴力、性虐待、性支配が起こらないよう、女たちはしっかり監視しなければならない。性は人間の基盤となる人権そのものなのだから。
■東日本大震災・原発事故の避難先で起こっていること
いま、東日本大震災および原発事故の被災地では、どんなことが起こっているのでしょうか?被災地に居住する「性を語る会」会員から、私のもとに、いくつものFAXが届き始めました。
・福島県では、原発を受け入れた地域の人々と原発を拒否してきた人々との間に対立が起こり不穏な空気です。加えて、ゼオライトが“すでに体に入ってしまった放射性物質を排除する”などという噂が出回っています。それが事実なら「聞いた人だけトクをする、買った者だけが生き残る」との心配が広がり、情報を受けにくい弱者に対する配慮が足りないと感じています。
・親族の溺死体を葬ろうにも火葬場が満杯で、やむなく土葬に合意せざるをえなかった被災者が(同じ避難所内で)、火葬のできた家族が枕許に安置しておいた骨壷を盗み出し、野外にばらまくという事件があり不穏な状況です。
・S県K市に集落全体で避難しているF町の町民の男性が“児童買春・児童ポルノ禁止法違反”容疑で逮捕されました。町長が連帯責任を理由に義援金の辞退を決めたところ、「罪を犯したのは1人で、大半はまっとうな町民だ。義援金は収入の途絶えた町民の生活資金――町民納得の上で決めるべきだ」と、町長対町民の対立が起こっています。
……などなど、長期に渡る避難所生活のストレス、被災時の恐怖のPTSDからくる月経不順、夫からのDVなどのFAXも届き始めています。阪神大震災時のような性暴力、性被害が起こらないことを祈るばかりです。
※72時間以内に服用すれば妊娠しない