北沢杏子のWeb連載

92回 私と性教育――なぜ?に答える 2011年10月

 

正しく知ろう!無防備な性行動とHIV感染 そのU

(前回からのつづき)
■HIV感染のハイリスク「MSM」への各国の反応
 “HIV感染のハイリスクの第2位がMSM”というのは、各国の伝統、宗教、政策と大いに関係があると思われます。アフリカ・サハラ以南の30カ国には、本人同士の同意があっても同性間の性行為を禁じる法律(反ソドミー違反)があり、死刑および10年以上の懲役となっています。となると、同性愛者や両性愛者は隠れて性行為をする他はないということになる。ですから現実的なエイズ予防政策として、まずは同性間の性行為を規制する法律を緩和する必要がある―とUN AIDS(前回、参照)は勧告しています。
 アジア諸国でも11カ国で、“合意ある成人であっても同性間の性行動は禁止”との法規制がありますが、ネパール・デリーの高等裁判所は、ゲイの権利を主張するグループの提訴に対し、150年間続いた同性愛禁止法を違憲だと断じました。と同時に、記者会見で「MSM厳罰化の緩和はHIV感染予防に資する」とも発表。政府はこれを受けて、同性愛厳罰法を撤廃したとのことです。

■児童養護施設における同性間性行動への警告教材
 私は3年ほど前から「児童虐待対応専門委員」に任命され、児童養護施設(以下 施設)の講演などが増えました。施設での最も多かった質問が、児童間の性虐待・性支配の問題でした。年長男子が年少男子をベッドに引っ張り込んで性器を舐めさせる、マスターベーションをさせる、オーラルセックスをさせる、アナルセックスをする……そして被害児はやがて年長になると加害児となって、年少男子をベッドに引っ張り込むという連鎖です。
 そこで私は施設の少年たちのための、“MSMがHIV感染の第2位を占めている”こと、なぜMSMが危険なのか?という警告教材を作成することにしました。
 といっても、最初からオーラルセックスやアナルセックスの害について説明したのでは、心身共に成長期真っ只中の10代の少年たちの反発を招くのは明らかです。そこで、「腟」と「肛門」の構造の比較から始めることにしました。
 腟はあかちゃんが生まれてくる道なので、その粘膜は厚く丈夫にできており、長さは8〜10cm。また、腟内は腟壁の組織に蓄えられたグリコーゲンが、乳酸に分解されて腟内を常に酸性に保ち、外から入ってくる病原菌の繁殖を防いでいます。
 それに比べ肛門の長さはわずか1.5cmしかなく、その先は直腸です。消化されないで残った食べ物のカスや腸の粘膜から剥がれ落ちた細胞、さまざまな細菌などが混ざった便がS字結腸に溜ると、自律神経が働いて、肛門の内括約筋(不随意筋)がゆるみ、直腸へと降りてきて便意をもよおします。で、トイレに行くと、それまでしっかり閉じていた外括約筋(随意筋)がゆるんで、排便が行なわれる。この2つの括約筋は、普段は二重のゴムバンドのようにしっかり閉じていて、その周辺には毛細血管が網の目のように張り巡らされています。

■アナルセックスは危険!
 ところが世の中には、(男性に対しても女性に対しても)無理に肛門性交をする男性がいるんですね。肛門の長さはわずか1.5cm、その奥は直腸です。男性性器は、外括約筋と内括約筋をこじ開けて直腸の中に挿入されます。こういう行為が行なわれると、外括約筋と内括約筋に張り巡らされている血管が切れて出血(切れ痔)。また、薄くて傷つきやすい直腸の粘液にも、かすり傷ができます。
 直腸の粘膜は、人体の中で2番目に吸収力のある粘膜なんですよ。そんなところに、射精が行なわれれば、さまざまな性感染症(HIVを含む)の病原体が吸収されるのは、火を見るより明らか。また、性器を挿入する側の男性も、その尿道口からさまざまな菌が入ってきて、尿道炎、B型肝炎、尿路感染症などの感染や発症例が報告されています。
 これが、私のMSMへの警告教育の要旨。“ところが世の中には”と対象をぼかして説明する私の苦心の授業、ご理解いただけたでしょうか。

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