北沢杏子のWeb連載
第94回 私と性教育――なぜ?に答える 2011年12月 |
特別支援学校での90分間の性教育授業 そのT
先月、兵庫県の特別支援学校(旧 養護学校)小学部と中学部の児童・生徒対象の授業をしました。まず、ホワイトボードに教材を貼ってのプライベートゾーンの勉強。「みんな水着を着ています。みんなも学校のプールで泳ぐときは水着を着るよね。水着を着けているところ――女の子は胸と性器とおしり。男の子は性器とおしり。ここは“わたしだけのもの”、“ぼくだけのもの”、他人に見せたり見せられたり、触ったり触らせたりしてはいけないところです。男の子はチンチンを出したりしないよね。女の子はおっぱいを触らせたりしないよね?」といった、明るい調子で話すことから始めます。
次に、みんなにのどぼとけ、ヒゲ、わき毛、乳房、性毛などを配って、全員参加の「からだの成長」の学習。「はい、上手にできました。こんどは、お母さんが持っているあかちゃんのもと卵子と、お父さんが持っているあかちゃんのもと精子を“がったい!”ってしてみましょう」。
子どもたちは、割箸の先に貼りつけた卵子と、同じく割箸の先に貼りつけた精子を、それぞれが両手に持って「がったい!」とさせて、ぐるりと卵子をひっくり返すと、生まれたときの自分の顔が描いてあるのでびっくり!
次に、先生たちに助産師さんになってもらい、お母さん人形があかちゃんを産むのを助けてもらいます。男性の先生はお父さん役。お母さん人形がいきむのを「がんばれ、がんばれ」と励まして、生まれた瞬間、「ありがとう」。
二卵性双生児が生まれるように作ってある教材なので、児童・生徒はえーッと驚き、生まれる度に「おめでとう!」と大拍手です。続けて、生まれたばかりのあかちゃん人形を立たせ、生徒の一人と並べて比較。
「ほーら、みんなが生まれたときは身長は50センチメートル。いま、きみは何センチ?150センチか、わぁ、3倍にも成長しちゃったのね。体重は3キログラムだったの、いま、きみの体重は?」と、90分間の授業は進められました。特別支援学校で90分もの間、廊下に出てもいかずに、ちゃんと授業を受けたのは初めてだそうです。
後日、一冊に綴じられた先生方からの感想文が送られてきました。「楽しい雰囲気のお話で、児童・生徒たちも積極的に参加。授業後、生徒たちが『女の子の胸に触ったらダメなんだよ』『ここ(性器)は見せたらあかん』と、お互いに言いあっているのを見て、よく理解できていると感じました。思春期の男子生徒のモゾモゾ(性器いじり、マスターベーション)も、絵カード教材を使っての指導で、人前でしてはいけないこともわかったようです。
この行為については、私たち教職員も保護者も『ダメッ』『やめなさい!』と禁止する一方でしたが、北沢先生のお話で、マスターベーションは悪いことでも恥かしいことでもなく、「性の自己管理」として認め、“人前ではしない”ルールを教えることで、双方共に緊張がやわらげられ、よい方向に進められることを学びました」と。
この感想文を読みながら、知的障害をもつ子どもたちが、これから先、性的被害者にも加害者にもならないよう、次のステップの指導の必要性を痛感しました。というのも、私が現在行なっている学生ゼミ――看護専門学校の女子学生から、下記のような感想文が送られてきたからです。
「今日のテーマ“災害と女性”の講座の中で、『避難所で幼児が外から侵入してきた露出症の男から、無理矢理性器を口の中に挿入された』という性被害の実態を聞いて、自分の幼少期を思い出した」の書き出しで、5歳の頃、同じ団地に住んでいる小学校5年生の知的障害をもつ男子に捕まえられ、抱きつかれてパニックに。やがて小学校1年生になった彼女は、6年生の彼から登校下校の際にも抱きつかれ、一人でおつかいにも行けない子になったが、その理由を母親にも訴えることができなかった。
中学生になった後も、同じ団地なので、見つかる度に肩をつかまれ、自転車で追いかけてきてタイヤで足をひかれるなどの被害にも遭うようになった……。
感想文は、「彼に出会ってから18年が経った。今でも私は人に肩を抱かれたり、親しく抱きあうことに戸惑いを感じ、恐怖が蘇る。幼児期に受けた傷はPTSDとして、いつまでも消えない。(略)こうした行為に遭ったら、すぐに大人に訴えること。『嫌だ!』と大声で拒否するトレーニングを、幼少時から行なうと同時に、知的障害児への、性教育を通しての指導も十分にしてほしい」と結ばれていました。
私は、次からの授業では、私の著作絵本『わたしのからだはわたしのもの』『イヤ!というのはどんなとき』を、大判の紙芝居にして読みきかせをしたいと考えています。