北沢杏子のWeb連載

96回 私と性教育――なぜ?に答える 2012年2月

 

障害児・者の性教育――施設職員側の問題点

  これは、私の著書「知的ハンディをもつ人びとへの性教育・エイズ教育」(アーニ出版刊)の中の、ある施設の女性生活指導員T.Iさんの意見です。読み返してみて、施設の(児童養護施設も含む)職員の方々の中には、「性」に関するさまざまな認識や考え方があり、性教育を進める上での方法論も熟考する必要があると痛感――転載させていただいた次第です。(文責 北沢杏子)

■北沢杏子さんの指導で一変した職員の考え方
 私が11年前に今の職場に移ってきた頃は、性に関することはいっさい禁止。セックスはもちろん、手を握ってもいけない、そういう感じだったんです。でも、トラブルはありました。施設内や外出先でのレイプ事件など、私たち職員は警察へ行ったり、婦人科の病院へ行ったり、後始末ばかりしていました。
 それから「だめ!」「だめよ」の禁止語。そういう中で「なにか、おかしいね、不自然だね」と、数人の職員から意見がでて、性教育を始めたんですが、やはり、いわゆる純潔教育思考で行き詰まりました。そんなとき、たまたま北沢杏子さんと出会い、性に対する職員の考え方が一変しました。
 それまでは、こちらからの一方通行でしたが、園生の意見をどんどん聞くようになり、自己表現とか判断力とかの話題がでるようになりました。
 
■職員への呼び方――○○先生から○○さんへ
 まず変わったのが職員に対しての呼び方が「○○先生」から「○○さん」になったこと。古い職員の中には「おまえに“さん”といわれるいわれなはい」って怒鳴ったりして(笑)、しかし、それをどんどん乗り越えて……下記のカリキュラムの6くらいまでは、できたと思います。

「性教育」カリキュラム
1.エイズってなんだろう?
2.男と女の違い――いのちとは……?
3.自分を大切に――「No !」といえること。
4.グループディスカッション――「不安なこと、知りたいこと、
 なんでも話しあおう!」
5.北沢さんの授業『からだを知ろう、エイズを知ろう』。
6.授業を通して感じたことを話しあう。
7.北沢さんに教わった「エイズのオペレッタ」の練習と発表。
8.これからの自分――将来に対する希望と不安。
9.これからの自分――自分を大切に、相手も大切に。


 でもやっぱり、性教育っていうのはしんどい。ちょっと休むと、もう面倒くさくなってしまう。それで、しばらくストップすると、その間に、やらないで済ませて卒園した人たちが、社会にでてトラブルを起こしたりする。そんなわけで、「あっ、やっぱりやらなければ」っていうことで、またユーターンしてやり始めたんですが……。
 けれど、ここでつまずいたのは、上司や職員が代わると、また一人ひとりに性教育への理解と必要性を求めるところから始めなければならない。で、なにかトラブルが起こると、園生にむかって「花にもおしべとめしべがあるでしょう」(笑)って。それで、やっぱりもう一度きちんとやっていこうと思って、左記のカリキュラムを作ったんです。

■エイズのオペレッタに取り組む
 カリキュラム7の「エイズのオペレッタ」は、市内の施設の合同フェスティバルにぶつけたんです。「今回はエイズの劇に取り組もうじゃないか」と。この劇をして、職員、園生とも、強力に、まとまっていったのです。やっていくうちに、自分たちでどんどん変えていき、自分たちで作り上げて、本当に集中してやれたんです。

 次のカリキュラム8と9なんですが、かなり深刻です。ネックになるのは、「どうせ自分なんか……」と、みんな将来の自分について、なかなか前向きに考えられない。というのも、人を好きになることを応援したいとは思うんですが、それが実らなかった場合、精神的に不安定になって、自傷、投薬、入院ってこともあったので、失恋した後をどうすればいいかって、つい考えてしまう。
 私の施設では、てんかん、精神分裂症ほか、「心因反応」といった病気などで精神科の投薬を受けている園生が、50名のうち半数以上いますので……。

 もう一つ、愛情の問題ですが、とても両親に可愛がられて育った45歳の男性がいるんですが、その年齢になった今でも、すぐに若い指導員に抱きつこうとしたりする。指導者側にそういうことをずっと許してきた状況があったからだと思うのですが、やはり小さいときから、教える側はきちんと教えていかないと、その人が社会に出てから辛い思いをすることになる。社会に出ると「変なおじさん」っていわれることになってしまいますから……。
 私としては、そのあたりのフォローをどうするか。そこが今、行き詰まっている部分で、もう一歩踏み込んだ性教育ができない理由なのです。みなさんの施設の状況はどうなのでしょうか?

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