北沢杏子のWeb連載
第98回 私と性教育――なぜ?に答える 2012年4月 |
男女交際と責任 「青少年の性行動白書」―討論の資料としての
いま私は、中学生・高校生対象、上映時間15〜18分の教育映像教材4本を製作し終ったところです。その中の1巻『男女交際と責任』は、10代の性行動の低年齢化や過激な情報の氾濫、とくにケータイやネットによる安易で不確かな男女交際が日常化し、相手との短絡的な性的関係の結果、ストーカー殺人事件など、またか、またかと報道されている今日、10代の自己決定力を養う必要があるとの想いから、一部を、討議の資料としてここに紹介してみます。
■初めてのキスの動機
問題は、男子の初めてのキスの動機に「性的に興奮して」が21%、「好奇心で」が25%となっていること。一方女子は、「迫られてキスをしてしまった」が19%もあります。私がある中学校2年生の性教育出張授業を行なったときの男子と女子の意見は、次のようなものでした。
男子 男子は興奮すると何をするかわからなくて、あとのことは考えずに「やることはやってしまえばいい」という感じが多いと思います。
女子 男子のことが好きだったら、やっぱり、その人の思ったとおりにしてあげたほうがいいのかな、という思いになって。だから、自分の思っている気持ちよりも、相手の気持ちを優先にしちゃうところがあるから……。
好きだったら「自分の気持ちよりも相手の気持ちを優先してしまう」というのは、中学2年生の女子には共通した未成熟な心理なのかも。クラスで討論した結果、女子はイヤなら“イヤ!”と意思表示をする。それを受けて、男子は“考え直す”と答え、この対立意見はは落着したのでした。
■初めての性行動の動機
初めての「性行動の動機」―男子の場合は、「性欲から」が43%。「好奇心で」が18%。「愛していたから」は13%。これに比べて女子の方は、「愛していたから」が50%、「好奇心で」が12%、「性欲から」は7%と、大きく差が出ています。このグラフに対して、私が出張授業を行なった、ある高校2年の女子と男子の代表的な意見は、次のようなものでした。
女子 女子の考えている「男女交際像」と男子の考えている「男女交際像」は、ずいぶん違うと思うのね。女の子は手をつなぐだけでとか、キスするだけでいいとか考えてるんだけど、男の子は、そうは考えてないと思うから。
男子A 男子のほうはさ、触りたいとか……、
男子B からだを求めたいんだろ?
男子A そう、そう、そう……。
発言にもあったように、男子は“女子の体にさわりたい、体を求めたい”という性衝動から性行動に及んでしまった。一方、女子の方は“好きだったら、相手の思うとおりにしてあげたい”と、受け入れてしまった……その結果、望まない妊娠につながることも少なくないのです。
■20歳未満の人工妊娠中絶件数(2009年度 厚生労働省)
日本の年間人工妊娠中絶件数226,878件のうち、20歳未満の件数は21,535件、約1/10を占めています。このグラフに対し、私が出張授業を行なったある高校3年生のクラスでは、“退学して産み育てる”というカップルもいましたが、大多数の生徒は――
男子 高校生ですから、子どもを育てていくことって、ホントにできないと思うんです。ホントにダメですよね。
女子 産むんだったら、絶対、自分が自立して、相手と対等に作っていける家庭を持つときに産みたいから、この状態(高校生)だったら、私は中絶すると思います。
2005年7月、中教審・初等中等教育分科会教育課題部会は、性教育について「安易に具体的な避妊方法の指導等に走るべきではない」との見解を示しています。望まない妊娠や避妊について教えないことが、10代の性交の抑制につながる――との考えによるものでしょう。
しかし、アメリカの研究報告では「禁欲プログラムは、逆に望まない妊娠の数を増やした」。またオーストラリアでは「質の高い性教育によって初交時期を遅らせ、責任ある性行動をとれるようになった」との結論に達しているのです。
1994年の国際人口開発会議で採択された『リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)』の理念は、行動計画として、包括的なセクシュアリティ教育は「人生の早期に開始されるべきであり、これは人びとのセクシュアルヘルス(性の健康)増進のための最も優れた投資である」と明記しています。
この項が、“若者のセクシュアルヘルス増進のための討論資料”として活用されることを期待したいと思います。