北沢杏子のWeb連載

99回 私と性教育――なぜ?に答える 2012年5月

 

こうのとりのゆりかご検証会議 第二期報告
「こうのとりのゆりかご」―その後と問題点 そのT

熊本市慈恵病院(蓮田太二院長)が、「こうのとりのゆりかご」(以下「ゆりかご」)の運営を開始したのが2007年5月10日。その日から約4年半後の2011年9月30日に、「ゆりかご」検証会議・専門部会(部会長 弟子丸元紀 児童精神科医他、法律、小児科、心理学、児童福祉、福祉施設等の専門職の方々計6名で構成)は、第二期検証会議報告※を県知事に提出しました。

※第一期は2007年5月10日〜2009年9月30日、第二期は2009年9月30日〜2011年9月30日とし、今後は2年毎に報告を継続。

■「こうのとりのゆりかご」のその後
 2007年5月の運営開始から2011年9月末までに、何人の乳幼児が「ゆりかご」に預けられたと思いますか?4年半の間に、計81人のあかちゃんです。
 運営開始日から半月後の2007年5月26日に、熊本弁護士会主催のフォーラムが開かれ、匿名性と子どもの人権についての意見交換が行なわれました。
 その席上、蓮田院長は「親が子どもを生かすか殺すかというパニック状態のとき、最後の砦として匿名で預けられることは重要。子どもには出自を知る権利はあるが、生きる権利がより重要だ」と述べています。
 この“匿名”というのが、マスメディアも含めて、あっという間に全国に広がり、第二期報告にも「明らかに自己の都合による“利用”とみられるケースもあり、安易な預け入れにつながっている面もある」と指摘されています。
 匿名で何の手がかりもなく置いていかれたあかちゃんは、そのままでは無戸籍児になってしまうので、県知事によって推定出生年月日および推定出生場所が記載。氏名がつけられ戸籍と住民票が作成されます。それがなければ「子ども手当て」はもちろん、定期健康検診や予防接種も受けられず、里親や養子縁組を希望する夫婦が現れても、これらの戸籍簿他が揃っていないと成立しないのです。

 「ゆりかご」ではこうした経験から、あかちゃんを置いていく扉の傍に『おかあさんへの手紙』や“24時間電話相談カード”を置くこととし、ホームページも“匿名制”を削除。「ここはあかちゃんを預かるところではなく、相談を受け、一緒になって考え、解決策を見つける“新生児相談室”です」と変更。メディアに対しても“匿名制”および“あかちゃんポスト”の表現は禁止、と言い渡しました。
 さらに、2010年4月1日には熊本市が児童相談所を開設。「ゆりかご」に預けられた子どもへの対応についても責任を負うこと、預けに来た母親の身許調査や、預けなければならない事情聴取も行なわれるようになりました。こうした可能な限りの調査や聴取などによって、その背景が浮かび上がってきた―というのが、「ゆりかご」検証会議第二期の報告です。それを詳しく見ていきましょう。

■あかちゃんの年齢は? 母親の年齢は? 居住地は?
 2009年9月30日から2011年9月30日までの2年間に、「ゆりかご」に預けられた30人(女児18人、男児12人)のあかちゃんの年齢は、新生児(生後1ヵ月未満)が21人、生後1ヵ月〜生後1年未満のあかちゃんが5人、生後1年〜就学前までの乳幼児が4人でした。
 母親の年齢は、10代4人、20代13人、30代8人、40代1人、不明が4人。どこからきたのか(母親の居住地)の調査では、熊本県内6件、熊本県以外の九州7件、関東7件、近畿4件、中部1件、中国1件、不明4件となっています。
 出産した場所は、医療機関18件、自宅8件、車中1件、不明3件ですが、医療機関だった場合は、健康保険組合から分娩手当(約40万円)が支給されているはず。退院後、悩んだ末、「ゆりかご」に―ということになったのでしょうか。
 自宅分娩の例では、10代の少女が妊娠を隠し続けて家族にも相談できず、自宅で出産。手近にあったハサミで臍帯(へその緒)を切るなど、新生児に多血症や心不全の危険を負わせた事例もあったとか。また、車中分娩では「ゆりかご」のある慈恵病院に向かって、男性(父親)が運転する車の中で出産。胎盤をつけたままの新生児が低体温の瀕死状態で病院に辿りつき、母子とも健康の危機に直面―という無知な若者の実態が浮かび上がってきました。

 検証会議は、これらの事例から次のように警告。
@若い世代の妊娠・出産に対する基本的な知識が不足しており、いのちを大切にする教育や性教育のさらなる充実と、福祉制度や公的相談窓口の積極的な周知が必要。
A男性自身が妊娠・出産・育児の問題を自らの問題として自覚するための教育、啓発に力を入れることが重要だ―と。
 望まない妊娠・出産をしてしまう女性、させてしまう男性に徹底した性教育・避妊教育を行なう学校教育と、どんな悩みにも応じてくれる公的相談窓口を全国的に開設することが喫緊の課題でしょう。みなさんはどう思いますか。

 「私と性教育なぜ?一覧」へもどる    

トップページ「北沢杏子と性を語る会」へもどる