「性教育は人権教育」

性教育の樹──私の概念と実践
北沢杏子


1965年から今日まで、性教育ひとすじに研究と実践を積んできた私の性教育の理念を図式化したのが「性教育の樹」です。



性教育ってなんだろう?
まず上の「性教育の樹」を、ざっと見てください。性教育というと、ふつう、樹の左半分の内容を想像する方が多いのではないでしょうか。
下から見ていきましょう。「からだを清潔に・月経の手当て」などの一群は、それだけの指導で終わるなら、処置教育にしか過ぎません。「月経・射精」の一群は生理教育、「性交・妊娠・出産」は生殖教育にしか過ぎないのです。

​では、どうしたらいいか?これらを科学的に正確に伝えながら、一つひとつ、自分のからだは自分で守る保健行動の選択に繋げるように話していってほしい。そうすれば、まったく意味が違ってきます。
保健行動の選択を自己決定できるかどうかは、とくに、望まない妊娠や性感染症などが問題として浮上してくる中学生・高校生にとって、重要な「健康の自己管理」のポイントになってきます。

​つぎに右半分、「社会と性」について見ていきましょう。もし、家庭でDV(ドメスティック・バイオレンス)が行なわれていれば、それを目撃しながら育つ子どもは、児童虐待防止法による被虐待児になり、実際に暴力を受けて育つ子どもと同様の影響を受けます。また、妻へのセックスの強要は性暴力であり、その結果、中絶を余儀なくされたり、性感染症の感染へと繋がる例も少なくありません。「私は結婚をパートナーシップ(協力・共同体)と名づけたい」と言ったのは、作家のディザートですが、そうした対等な人間関係、他者とお互いに尊重しあえる人間関係を構築する力も、性教育を通して育てていきたいと、私は考えています。

メディアの影響も無視できません。思春期に「性」を商品化したポルノが大脳にインプットされると、男子・女子ともに、歪められた性の価値観が刷り込まれてしまいます。職場でのセクシャルハラスメントや、大学生の集団レイプ事件、「援助交際」「パパ活」という名の買売春もまた、過剰な性情報を垂れ流すメディアの影響といえるのではないでしょうか。

​さらに最近よく耳にするジェンダーギャップ指数(GGI)や同性婚、選択的夫婦別姓といった話題も、性教育のトピックとして取り上げるべきでしょう。生理の貧困や赤ちゃんポストといった問題も、性の問題は社会の問題であることをはっきりと示しています。​

また、LGBTQや障害者など、マイノリティーに対する差別のない社会、それぞれがあるがままに生きる社会を構築しようと呼びかけるのも性教育の重要な仕事です。

​性教育を処置教育、生殖教育、生理教育に終わらせてはいけません。
みなさんも自分の性教育の樹を作ってみませんか。

ビデオ『性教育の樹』