2004.12月
10代の中絶、年間46,000件 ──性教育の徹底を! |
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「性を語る会」代表 北沢 杏子 |
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「人工妊娠中絶禁止、同性愛者同士の結婚禁止」このネオコンのマニフェスト(?)で、ブッシュ大統領は400万票を獲得、再選を果たしたという。再選の理由は他にもいろいろあろうが、性教育に携わる私にとって、これは看過できない問題だ。 過日、ある県立女子高校生徒700人の前で講演したとき、現行の「母体保護法」への、1982年の私たちの運動が甦り、ほとばしるように口を突いてでた。そう、1982年、中絶に関する「優生保護法」(当時は、この優生思想を標榜する呼称だった)を改正(悪)しようと、300人余のW生命尊重国会議員連盟”と称する議員たちが結束して、中絶の条項の中から「妊娠の継続が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」(14条)の経済的理由を削除しようとした事件だ。某宗教団体を母体としたM議員は国会で、マリア・テレサと握手している自分の写真パネルを掲げ、「胎児の生命尊重」を叫んだのだった。「戦後の経済状況の中で規定された中絶の経済的理由は、経済成長を遂げた現在、削除は当然!」と。 当時、年間40万件もの中絶が行なわれており、それらはほとんどW経済的理由”の条項に依っていた。とくに未婚の10代、20代は、それを理由に中絶ができた。もし、経済的理由が削除された場合は、100年も前に規定された堕胎罪(刑法212条)が現在も活きているから、手術を行なった医師他は発覚すれば処罰される。となればヤミ中絶が横行し女性たちは健康の危機に直面すること必至だ。1982年のあの日、篠突く雨の中、私たちは経済的理由削除反対の運動を繰り展げ、遂に阻止したのだった。今日の母体保護法の中絶の条項にも、経済的理由が挙げられているのには、こうした経緯があったのだ。 現在、20歳未満の人工妊娠中絶は、年間46,000件を超え、今後も増え続けるだろうと予測されている。私は決して中絶に賛成しているわけではない。しかし、もし、あのとき、私たちが「経済的理由削除阻止」の運動を展開していなかったら、いま、どうなっていたかを女子高生たちに伝えたかったのである。 私は講演先で、保健師や助産師、養護教諭から、若い女の子の望まない妊娠や出産のさまざまな情報を耳にする。最も年少者は小学校6年生の妊娠と出産だった。月経が始まったばかりで性周期も不順な6年生の女の子自身はもとより、母親も先生も妊娠には気づかなかった。法的に中絶が可能なのは、妊娠21週と6日までだから(最終月経を0週として起算する)、気がついたときは、生まざるを得なかったのだろう。ある地方では、中3女子が妊娠を隠し続けた揚句、産婦人科に飛び込んでトイレで出産。水洗トイレの水に新生児を押しつけて殺して逃げた(結果、少年審判にかけられ、殺人と死体遺棄の罪で少年院送り)とも聞いた。また、ある地方では、「一昨日自宅で生み、きょうは高校で体育をやっている(退学になるので)。産後の母体の健康が心配」という保健師からの訴えも聞いた。 妊娠の仕組みや、中絶と心身の健康について、正確に徹底的に、学校で家庭で教えなければならない。それなのに昨今の「性教育バッシング」の酷さはどうだろう。今月の私のもうひとつのHP『私と性教育──なぜに答える』を、併せて読んでほしい。 |