北沢杏子のWeb連載

第37回 私と性教育――なぜ?に答える 2007年3月

 

きをつけよう!がっこうのかえりみち

 2月末のある日、幼稚園の年長組さん50人を対象に、安心・安全のおはなしをしに行きました。教材は私が作った『きをつけよう!がっこうのかえりみち』という紙芝居です。ストーリーは学校の帰り道、A子、Bすけ、C子ちゃんの仲よし3人組に次々と危険が降りかかる。「さあ、こんなときみんなだったらどうする?」と問いかけながら対話を進めました。子どもたちは真剣そのもの!挙手して口々に答えます。その様子をお伝えしましょう。

第1話――C子ちゃんが「トイレに行きたくなっちゃった。そこの公園のトイレに行ってくるね」。さあ、こんなとき、どうする?子どもたちの答えは「一緒に行って待ってる」「1人になっちゃダメ!」


第2話――知らないおじさんが、Bすけくんの肩を抱きよせて誘います。「駅までの道はどう行けばいいの?一緒にいってくれないか」さあ、みんなだったらどうする?
 子どもたちの回答は「逃げる」、「断わる」、「交番できいてよ、という」、なかには「その男の足を踏んづける」、「きんたまを蹴り上げる」という子もいて大笑い。
 でも、幼稚園児が大人に立ち向かうのは、かえって危険。近づいたら逆に抱きかかえられて危害を加えられるかもしれないよ、と忠告します。そう、「誘う人にはついていかない!」です。


第3話――あたりが暗くなり、急に雨が降ってきました。3人が大きな木の下で雨宿りをしていると、「ずぶぬれになっちゃうじゃないか。車で家まで送ってあげよう。さあ、乗りな」と誘う若い男。さあ、どうする?
 しかも、このお兄さん、どこかで見たことのある、近所に住んでいるお兄さんかもしれません。折角親切に誘ってくれたのに断わってもいいのでしょうか。でも3人は、きっぱり断わりました。園児たちも大きな声で答えます。「誘う人の車には乗らない!」と。


第4話――「いま、そこで、あなたのお母さんが自転車に乗ったまま倒れて、救急車で運ばれたのよ。さ、おばさんの車で救急病院に行きましょう!」C子さんは突然、知らないおばさんに手首を掴まれました。さあ、どうする? みんなの答えは「誰か来て!って叫ぶ」「逃げる」「ホイッスルやブザーを鳴らす」などガヤガヤ。そう、「危険だと思ったら大声で叫ぶ」が正解です。A子さんが「助けて!」と叫び、BすけくんとC子ちゃんがホイッスルとブザーを鳴らしたので、おばさんは逃げてしまいました。
 3人は『子ども110番の家』のポスターが貼ってある八百屋さんに駆け込み、怖い目にあったことを報告します。八百屋さんの連絡で3人の家族が迎えに来て、「よく断った」「えらい、えらい」とほめました。そう、「なにかあったら、すぐ家の人に知らせる」ことが大事です。
 この事件がきっかけになって、上級生たちが通学路の危険な場所や、3人が実践した5つの約束のポスターを作り、あちこちに貼りました。これで安心!もし、悪い人がこのポスターを見たら、子どもや地域の人びとが用心していることがわかって、コソコソ逃げ出すに違いありません――これで、紙芝居はおしまいです。

 私は安全・安心の絵本、紙芝居、ビデオ、DVDを制作しましたが、安全教育を行なうときは、単なる危険回避のノウハウを教えるのではなく、国連の『子どもの権利条約』(1989年)の「子どもは安全な環境で安心して生きていく権利がある」という認識を子ども自身に知らせることが、最も重要だと考えています。この条約は、子どもにとって最善の利益を保障するもので、要約すると次の4つの権利を謳っています。

1.生きる権利  2.育つ権利  3.守られる権利  4.参加する権利 


 この中の3.の、子どもは危険から守られる権利、危険な目にあったときは、敢然としてこれに立ち向かっていく権利、また、相手に落ち度がなかったとしても、きっぱり拒否する権利があることを話して、子ども自身の「自信」につなげてほしいと思うのです。

 次回は、小学校3〜4年生にDVDで行なった『きをつけて!きけんなばしょ』の授業の様子をお伝えしましょう。


 

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