北沢杏子のWeb連載

70回 私と性教育――なぜ?に答える 2009年12月

 

知的障害児・者への性教育
―都立七生養護学校小・中・高等部の性教育模擬授業―     そのW

■勃起と射精について――高等部男子の性教育
先生 これから「男の朝講座」です。男の朝は忙しい。なんで?
生徒 まず起きて……、
先生 起きると何かに気づくんだよね。ピューン。ペニスはどうなってる?立ってるよね?なぜでしょう?2つ理由がある。
 寝る前におしっこに行っても、おしっこが溜まります。ここにおしっこを溜めておく袋(膀胱)があるんだけど、そこにおしっこが溜めきれなくて漏らす。みんなは大きいからおしっこを漏らすことはない。しかし別のものを漏らすこともある。
 みんなが夜の間にピューンと出しちゃう、もうひとつのものがあります。夜、夢をみるでしょう。どんな夢をみる?
生徒 エッチな夢。(笑)
先生 そう、するとおちんちんがピヤーンと立ちます。これを勃起といいます。(教材を見せながら)この皮(包皮)がびろんびろんと伸びて頭(亀頭)が出てくる。そうしているうちにすっきりする。なんですっきりしたかというと、眠っている間にシュッと出てくるからだよ。これを射精というの。射精は何色?
生徒 白。
先生 (ペットボトルに入った牛乳を見せて)こういうものが出ます。ということで、男の朝は忙しいんです。

■夢精のあとのパンツはどうする?
先生 では、濡れたパンツはどうすればいい?そう、洗う。ところがお風呂場で洗うのが恥ずかしいと、そのままはいていた男子がいたよ。午後の体育で走ってクラスに戻ってきたら、なんだか臭ってくるんだね。なんと、朝、汚したパンツをそのままはいていたのね。
生徒 きったねぇ。(笑)
先生 汚いよね。汚いパンツを、みんなはどうする?
生徒 洗濯機につっこんでおく。
先生 その臭いがほかの洗濯物にうつっちゃうよ。
生徒 ちょうど洗濯機が回っているときにめがけて!(爆笑)
先生 えっ、そんなふうにしていたの?パンツを汚しちゃったと思ったら自分でお風呂場に行ってゆすいでしぼって、洗濯カゴに入れる。もうひとつ気をつけてほしいことがあるよ。みんなお風呂に入るときどうしてる?ここ(性器)洗ってる?
生徒 皮をむきむきして洗ってる。
先生 そう。子どものうちは皮が被ってるからなかなかむけないんだけれど、大人になると皮がむけてきます。そしたら、しっかりと洗いましょう。
 このあいだ宿泊学習にいって、「むけ!」と言ったら、くっついていてバリバリと音がした人がいた。(笑)君たちは大丈夫ね。石鹸で洗って、あまりゴシゴシしないように洗って、ざぁーっと流そう。


■射精と日常生活の指導の教育効果
先生 七生では性教育がプログラム化されていて、男子編は二次性徴から入って、自分のからだの性的変化に気づき、異性の性的変化に気づく。
 そして出産の授業で、自分がどのように生まれたのかを気づいて、それから性交という順になります。
 大事にしているポイントは明るい雰囲気と、「語りあえる」ということ。もう一つ重要なのは、具体的な教材です。教材を見せて具体的に「こうだよ」「どうなんだ」「どうするんだ」「きみはどうするの?」というところまでいかないといけない。
 そのことプラス「科学性」です。ペニスがついているからといって(都教委が指弾する)わいせつな教材ではないんですね。 
 こうした具体的な教材で、勃起するとか、おしっこも出る、精液も出るということを教える。すると生徒たちが「なぜ、なぜ?」「どうなるの?」という疑問や関心を持ちます。それを引き出すのが教材の効果です。
 人間は人間からしか生まれない。君のからだも、先生のからだも、校長先生のからだも同じだよということを伝える。だから宿泊学習のときは僕もお風呂ですっぽんぽんになって、「ここを洗え」と指導します。
 二次性徴発現期にはいろんな不安があるので、そこをフォローしながら具体的に話します。七生園(児童養護施設)から通ってくる生徒たちが、過去に親から虐待されてきたとしても、「これからの君は1人の人間として、大人としてきちっと生きていくんだよ」というメッセージを伝えたいのです。

■北沢杏子の感想――感動につぐ感動の七生の性教育実践
 先生がバスタオルにくるまれたあかちゃん人形を抱っこして、♪ゆりかごの歌をカナリヤが歌うよ、ねんねこ、ねんねこ、ねんねこよ……と歌いながら教室に入ってくる……ここでもう、うるうるとなってしまった私。なんと優しくあたたかく、児童たちを包みこんでしまう授業なのだろう(第68回参照)。
 子宮体験袋を思いついたエピソードも素晴らしい。七生での性教育で繰り返されるのは、「お母さんに生んでもらったんじゃないよ、ぼくが(わたしが)生まれるよ!と合図して、頭で狭い出口を押し広げて生まれてきたんだよ」と、自分の存在価値を、自己肯定感を、育む方向に持っていく指導(第69回参照)。
 今回の男性の先生による夢精の話や、宿泊学習では、ご自分もすっぽんぽんになって生徒と一緒にお風呂に入り、ペニスの洗い方を指導する。生徒の答の一つ一つを受け入れて、ほめちぎって、そのあと正しいことを教える。ほんとうにすばらしい実践授業です。
 なのに、なぜ?なぜ?都議は、都教委は、都知事は、産経新聞は「不当な介入」をして、すべての都立養護学校の性教育を禁止に追い込んだのか?被告側にこそみせたい七生養護学校の凝縮された「こころとからだの学習」模擬授業でした。

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