北沢杏子のWeb連載

85回 私と性教育――なぜ?に答える 2011年3月

 

こうのとりのゆりかご検証会議報告
「こうのとりのゆりかご」が問いかけるもの そのT

 今回は、月替りメッセージ「あかちゃんポスト 日本とドイツの違いを考える 」そのT(2007年10月)そのU(2007年11月)に続く報告です。

 「こうのとりのゆりかご(以下 ゆりかご)」は、熊本市慈恵病院 蓮田太二副院長(当時 理事長)が、ドイツ・ベルリンのベビークラッペ(あかちゃんの扉)を視察。その必要性を痛感し、2007年5月10日から運営を開始した、思いがけない妊娠・出産※に苦しむ女性たちの救援と、棄児の命を守るための設備です。運営開始当日、すぐさま3歳の男児が預けられ、その報道に日本中が驚きに包まれたのも記憶に新しいところです。
 運営開始から2年と6ヵ月後の2009年11月、「ゆりかご」検証会議(座長 柏木霊峰・淑徳大学総合福祉学部教授他、医師、弁護士、福祉専門家他8名で構成)は、10回にわたる議論を経て、最終報告を県知事に提出。今回その詳細な記述が出版※※されたので、それに基づいて記述したいと思います。

■何人の子どもが預けられたか? 家族・家庭の状況は?
 2007年5月10日から2009年9月30日までの約2年と5ヵ月の間に預けられた子どもは51人※※※。
 その内訳は男児28人(54.9%)、女児23人(45.1%)。全体の8割(84.3%)が新生児で、うち生後10日以内が9割(86.0%)を占めており、残る1割は幼児が2人、障害児が複数となっています。
 なお、上記51件のうち、親の居住地が判明した39件(76.5%)すべてが熊本県外でした。その内訳は関東地方11件(21.6%)、近畿地方4件(7.8%)、中部地方6件(11.8%)、中国地方4件(7.8%)、四国地方1件(2.0%)、熊本県以外の九州地方13件(25.5%)で、判明した母親の年齢は、10代5人(9.8%)、20代21人(41.2%)、30代10人(19.6%)、40代3人(5.9%)と、10代から40代まで幅広い年代にわたっています。

 判明した母親の家族および家庭の状況は、未婚16件(31.4%)、既婚10件(19.6%)、離婚等によるひとり親家庭11件(21.6%)。実父の状況は、婚姻中の子ども7件(13.7%)、内縁関係の子ども4件(7.8%)、妻以外の女性の子ども8件(15.7%)で、父子家庭とみられる事例や、日本に居住する外国人の子どもという事例もあったとのことです。

■子どもを預け入れにきた主な理由は?交通手段は?
 預け入れた理由の最も多いものは戸籍関係(あかちゃんの祖父母による、戸籍に入れたくない、わが娘(あかちゃんの母親)の戸籍がよごれる)8件(15.7%)、生活困窮7件(13.7%)、婚

姻外の妊娠・出産5件(9.8%)、未婚3件(5.9%)、世間体3件(5.9%)その他(強姦、うつ、精神障害、養育拒否など)4件(7.8%)となっており、複数の理由を訴える事例が殆どでした。

 ゆりかごまでの交通手段で最も多かったのは車(自家用車)が41.2%、航空機が13.7%、新幹線など鉄道が29.4%となっています。産んだ場所は、医療機関が28件、自宅が14件、車中が1件、不明が8件ですが、問題なのは、10代の未婚の少女の場合です。
 1例ですが、中学校、高校、または専門学校に在籍している女子が、妊娠したことを親にも相談できずに、ひとりで自宅分娩。手近にあったハサミで臍帯(へその緒)を切るなど、新生児に多血症や心不全の危険性がある/関東地方など遠方から航空機や新幹線、あるいは高速道路を車を走らせ、出産直後(1日)の新生児を移動するなど、子どもの安全確保、母子双方の健康の危機/さらには移送中の車中で産み、胎盤をつけたままの新生児が低体温の危篤状態のまま辿りついたという事例もあったそうです。

 以上のようなさまざまな問題点が浮上してきた結果、検討会議からは、特に中学生・高校生に対して「妊娠とわかったら、定期的に検診を受けないと、無事な出産につながらないこと」「男子・女子とも、親になるための教育に早く取り組むよう、学校との連携が必要」との案が提出されていますが、そうでなくても、学力偏重、性教育バッシングの現在、教育現場でのこうした情報提供は恐らく不可能ではないでしょうか。

 もともと2007年5月の運営開始の時点で「ゆりかごは匿名で預けられる」と、メディアで大きく報道されたことが、「ゆりかご」設置の主旨である「生命尊重」とは大きく異なっていたところに問題があったのでは?と私は思うのです。
 次回は運営時に遡って問題点を考えてみましょう。


※慈恵病院はその信条から人工妊娠中絶を行なわない産婦人科病院なので、このような表現が使われているのではないかと思われる。私(北沢杏子)は、中・高校生対象の授業では「望まない妊娠」とはっきり表現していますが。

※※『「こうのとりのゆりかご」が問いかけるもの――いのちのあり方と子どもの人権――』こうのとりのゆりかご検証会議 編著 明石書店 2010年刊

※※※2010年3月30日までの半年間に6人増えて57人に。熊本日日新聞 取材班


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